ネギのお茶会 ルポ その三 「生ネギまの議題を検討する」

  • 目標の設定

前回書いたのだが、「生ネギま」という討論会は、実はある一つの事だけを検討していた。
それは「ネギまの方向性をどうすれば良いか」という事。
また、その前段の質疑応答内において、「OADの販売数によってネギまの今後の展開の大きさが変わってくる」という赤松健からの情報も大きかった。ファンが望んでいるのは、もちろんネギまのより活発な展開。この事からOADの売り上げ数はその場にいるファンにとっても重要な問題となる。
そのため、生ネギまに参加していた者達は、最初から率先して、「OADの売り上げ数を伸ばす為の、最適な今後のネギまの方向性」を検討するようになっていた。
本当に、この議事の誘導ぐあいは、素晴らしいw。
もちろん、ここでも、この議題について検討してみたい。

ところで、このように、なにやら利益に直接関係するような議題を検討するのであれば、まず、その素材であるネギまの「商業的な現状」を正確に捉えておく必要があるだろう。
素人考えで、一寸考えてみる。

赤松健は巨大収益を見込める重要な存在である。逆に言えば、収益が見込めない事をやらせておくようなゆとりは無い。
赤松健にとってネギまは手段に過ぎない。つまり、収益が上がるのであれば、別にネギまである必要は無い。
ネギまはすでに長期連載によって色々と無理が出てきている。これを維持する事は、時代に合わせた新企画に数倍する労力が必要かもしれない。
とは言え、ネギまにも今までに巨大収益を出してきたという実績がある。これを上手く利用する手段はまだあるかもしれない。

こんな所だろうか。
これは、ネギまという漫画作品を利益の面でしか見ていない、ファンにとっても非常に嫌な見方なのだが、このような側面はあるだろう。というか、企業にとってはこれが全てだ。
ネギまがアニメ化やらドラマ化やらOAD化やら、いかにも難しい企画なども含めて展開してきたのも、それが収益を上げるため「絶対に」必要だから。
漫画原作ファンからすれば「そんなことしてないで、細々とでも最後まで続けてほしい」というのが一番の希望なのだが、それは今までの流れから考えて無理な事なのだろう。というか、赤松健にとっては「売れなくなったら作る意味が無い」訳だから、「最後まで続けて」という言葉自体が無意味なのだ。「売れない=終了」なのだから。
ともあれ、このようにシビアな現状を踏まえつつ、この議題を検討してみると、なかなか刺激的で面白いかもしれない。

  • 検討素材

それにしても、検討すべき情報としての素材はかなり少ない。
まず、よく言われているのが、
コアなファン=年齢層高い=少数派=萌え系・クラスメイト編を好む
一般ファン=年齢層低い=多数派=バトル系・ストーリーラインを好む
という事。
これには、ネギまの歴史も少し絡んでいる。
当初のネギまはクラスメイト編で構築されていて、それが徐々にストーリーラインが明確になり、バトル傾向も強まってきた。つまり、当初からの古いファンはクラスメイト編に惹かれてネギまファンになっており、新しいファンは、武道大会などで読み始めるようになったりして、バトルを求める傾向にあるかもしれない、という事だ。
この傾向に関する証拠として、赤松健はその日記にて174時間目のゆーなファザコン編をあげている。コアなファンがネットで絶賛する中、実際のマガジンアンケートではそれほどではなかった。もちろん、ここでのアンケート対象の多くは、若い一般層として捉えてよいだろう。
また、他に赤松健が指針としたアンケート結果は、他に二つ。
一つは、総合的に見てバトル系の話が概ねアンケート結果が良いということ。
もう一つは、210時間目などのページ数が少なくてクラスメイト全員が詰め込んである回が、意外にアンケート結果が良いという事。
ほとんどこれだけの素材を下に、議題を検討しなければならない。なんとも厳しい話だ。

  • その前提は本当に正しいのか

そして議論に入ったのだが、結局、この程度の情報では有効な結論は出し様が無いと思える。(いきなり、お手上げかw)
検討の目標である「売り上げ」は、一般のファンが購入しなければ到底目標値にはとどかない。それでいて、その「一般のファン」を代弁すべき人も、詳細なアンケート結果の情報もでていないのだから、議論のしようがない。なんとも八方塞がりだ。
しかし、ここで前提とされている情報素材の解釈は本当に正しいのだろうか、という疑問が浮かんでくる。もう少し、その辺りを検討してみたい。
まず、ゆーなファザコン編がコアなファンで好評で、一般ファンには不評だったとして、それが単純に一般のファンはクラスメイト編=萌え系は苦手となるのか。それは、詰め込みクラスメイト編も意外に好評だった、という事と矛盾する。
この両者が矛盾する現象には、二つの理由が考えられる。
一つは、ストーリーラインの構成面から考えられる理由。
174時間目の前回まで、どのような物語が展開していたか。そこでは明日菜を軸にしたクラスメイト達の修行が描かれていた。つまり、クラスメイト編だった。
対して、210時間目の前までの流れは、同じ修行でもネギのかなり重たい展開が続いていた。これは一種のバトル物の展開と言える。
つまり、前者はクラスメイト編にさらにディープなクラスメイト編(ネギ達すら出てこないw)を重ねる事で、「バランス」を崩している。が、逆に後者は、重いバトル編の後に軽いクラスメイト編が入る事でバランスを保っている。
この事から考えて、一般のファンは別にクラスメイト編が苦手なのではなく、単に両者のバランスが崩れる事が不評だったのではないかと推測できる。多数派としては実に真っ当な理由だ。実際に所、わざわざネギまを読んでいて、萌え要素が嫌いという者がいるとも思えない。なぜ、コアなファンだけが174時間目好評だったのかというと、深いファンほどより広いスパンでバランスを考えるので、あまり気にならなかったのではないかと思われる。
そして、二つ目の理由は、その作品のデータ量に関係が関係しているのかもしれない。

  • 検討されるべき事柄「データ量」

ネギまの魅力を語る上で、とても重要な要素は「データ量」だと思われる。
掲載当初より、ネギまは31人という膨大な数のヒロインを投入し、そこに様々なデータを盛り込んでいる。そのデータはその時は意味が有るかもしれないし、無いかもしれない。けれども回を重ねる毎にそれらに意味が出来てきたり、読者の方から意味を見つけたりして遊ぶ事になる。
これは、ネギまがもー娘。を参考にして、全く新しい萌え漫画形態を提示した当初からの重要な魅力だろう。
そしてその魅力は、単なるデータの羅列であったクラスメイト編ばかりの初期の連載から、バトル物としての要素が強まり、ストーリー性が強くなってきた今でも、ある程度維持され続けている。毎回新しい設定が増え、隠されていた謎が少しずつ暴かれる。舞台も、箱庭のような麻帆良学園の中から魔法世界へと移して、その世界そのものの謎解きまで視野に入れている。
物語にて提示される事象は、それが「物語に関わる時」にのみ意味をもつ。その点ネギまでは、キャラの裏設定とか世界の謎解きとかが物語に係わるように提示され、その事象一つ一つに無駄が無い。つまり「意味のある情報の密度」が非常に高い作品と言えるだろう。それこそが、ネギまの一番の魅力と言える。
この魅力は、おそらく、コアなファン、一般のファン、どちらにとっても同じであろうと思う。ネギまが、やもすれば、ライトな萌えバトル漫画と低く見られる場合があるにも係わらず、多くの者を読者として引き込むのは、この魅力があるからではないだろうか。
そして、話を最初にもどして、174時間目のゆーなファザコン編がなぜ一般のファンに不評だったのかというと、そこに「意味のあるデータ量」を見出せなかったから、ではないだろうか。
このエピソードは、ゆーなの平凡なホームコメディだ。ホームコメディのイメージ自体がワンパターン的で、その雰囲気だけで「低データ量」と思われかねない。それに、コアなファンが長年待ち望んでいるキャラの掘り下げも、そのキャラに思い入れが無ければ意味が無い。つまり「データ」として見られない。さらに、より深いデータとしてフェイトやドネット、ゆーなママが出てきたとしても、それらを関連付けるのには、長期の視野が必要になる。つまり短期視点の傾向にあるライトファンにはデータとして取りこぼしがでてしまうだろう。そうなると「何時もの」魅力を持っていないネギまとして、不評となる。
これは、ネギまが長期連載を継続させてきた時により、そのデータ提示についても、ある程度受け入れやすい手段を用いなくてはならないという事を示唆しているアンケート結果だったのかもしれない。
つまり、一般ファン=萌えが苦手とかではないのではないか、コアファンも一般ファンも、若干形は違っても、実は同じものを求めているのではないか、とも考えられる。
実を言うと、あの討論の場において、この「情報量」というネギまの重要な要素が、「萌えかバトルか」「掲載形態をどうするか」という選択肢の中に一緒くたに放り込まれていたことが、議論をややこしくしていたのではないか、とも思っている。
このように考えてみると、ネギまには、「萌えとバトルのバランス」「より濃い情報量の提示」というものが、全てのファンに普遍的に求められているのではないか、という推測が成り立つ。ただ、その提示の方法を誤ると、ファンの特性によって食いつきが違うので、バランスを崩したり、薄く「感じて」しまうだけ。要は、この二つの柱の軸をぶれさせずにいけば、充分魅力的な作品であり続けるだろう。
・・・
かなりだらだらと書きすぎたorz。
今回はここまで。次回以降、やっと、本当に、ネギまの方向性を探って行きたい。
・・・まだ続くのかw。