綾瀬夕映について その五 これは私の「力」ですか? 

夕映について、以前から注意深く確認してきた事がある。
それは、夕映の「力」が本当に彼女の「力」なのか、という事。
「力」とは、夕映の場合魔法使いしての能力。これは、ネギと出会い、彼女自身がネギへの恋心を自覚する以前から求めているものだ。夕映は、今まで少しずつその魔法使いの能力を伸ばしてきたが、実はその裏に、その能力の全てが「彼女自身のもの」と言い切れない状況がある。「パクティオー」だったり、「麻帆良祭」だったりと、彼女をサポートするものがあったからだ。
しかし、夕映の「魔法を手に入れたい」「ネギのようになりたい」という熱い想いは、そんなサポートを頼りにしたものでは満足できないだろう。夕映は現在ネギへの恋心を自覚しているものの、ネギのパートナーとして、単純に彼を支える存在になりたいと思っているわけでは無いようだから。
今、夕映が求めているものは、あくまで「真実」。この世の裏の真実である「魔法使いの世界」の存在を知り、それを解き明かす力を求めている。夕映にとってのネギは、その「裏の世界の真実」の象徴的な存在であり、彼と共に歩む事によって、自分が求めている物が手に入るという想いも、ネギへの恋心に繋がっている。夕映の求めるものは、ネギのパートナー、つまり従者としてネギを通じて得るものではなく、夕映自身が自らの手で手に入れるべきもの。夕映はネギのパートナー=主人の従者になりたいのではなく、パートナー=並んで歩む者になりたいのだろう。
そんな彼女だからこそ、「自分自身の力」を手に入れる事は非常に重要な事だと思える。夕映が今までの冒険で手に入れた力がどのようなものなのか、改めて検証してみたい。

  • 魔法発動状況の検証

今にして考えると、夕映ほど魔法使いとしての成長が克明に描かれているキャラは他にいない。それは彼女が魔法の存在を知り、それを強く求めた時からあらかじめ定められた展開だったのだろう。
しかし、夕映が魔法を勉強し、実際に発動させたとしても、その裏には様々な状況がある。本当に「彼女自身が」魔法使いとしての力を手に入れているのか、検証してみる必要がある。
まず、夕映が魔法を認識したのが49時間目の対コタロー戦。そして、62時間目にはネギに対して魔法取得を求めている。この頃は、まだ魔法使いの修行を始めるまでには至っていない。
そして、64時間目において初めて魔法の勉強が始まる。この時こそが「魔法少女ユエ」の第一歩という事になるだろう。しかし、それはすぐに力として現れない。71時間目の対ヘルマン戦の時に、木乃香、のどか、くー、朝倉と共に灯火魔法を実現させるが、それが夕映の発動だったのかは不明だ。
夕映が単独で魔法を発動させたのは87時間目。灯火と風の魔法を成功させている。この時までに夕映は1日3時間の魔法の練習をしていたようだ。(1日3時間・・・、それが恋心に突き動かされての事とも自覚せずにだと思うと・・・泣ける。)しかし、この時は麻帆良祭初日として、世界樹の魔力が高まってきていた、という状況がある。つまり、彼女の力だけで魔法を発動させた、とは言い切れないのだ。
そして、麻帆良祭二日目。夕映はネギとパクティオーする。これが何を意味するかと言うと、夕映はネギとの魔力リンクによって魔法を使いやすくなったという事と同時に、「彼女自身の力」かどうか分からなくなったという事。以降、夕映は魔法を使う機会があったとしても、それが彼女自身の力なのかは分からない。141時間目の対魔法生徒戦において、初の実戦によるアデアット。後のアーティファクト「世界図絵」を使っての活躍は、完全にカードの力によるものだ。
麻帆良祭が終わり、172時間目での転倒魔法の修行は、意識してリンクを絶っている可能性もあるが、修行場所自体が魔力の充溢しているエヴァの別荘なので、やはりその影響が有るかもしれない。177時間目のバッヂ争奪戦における風陣結界と風の魔法は、実戦としてネギからの魔力供給を貰っているだろう。

  • 証明された夕映自身の力

しかし、そんな夕映が魔法世界に入り、世界のどこかに飛ばされた時、記憶を失ってしまう。そして、そのまま偶然が重なり、魔法学校で魔法の授業を受けることになる。(203時間目)
これにより、212時間目現在において夕映は箒による飛行、加速、武装解除等を使いこなす事が可能になっている。そして、これらの魔法はネギとの魔力リンクを絶った状態で実現させていたらしい。それは、夕映のパクティオーカードが記憶喪失によって白くなっていた事から推測できる。この後、カードに絵が蘇り、それに伴う魔力リンクの復活によって更に魔力が充実すると、夕映は竜種のブレスを一時的に防ぐ事すら可能とさせたのだ。
この期間、つまりネギとの魔力リンクが途絶えていた時の魔法は、明らかに「彼女自身の力」だろう。もちろん、魔法世界は現実世界に比べて魔力が充溢している世界であると推測される。しかし、そこに暮らす魔法使いが現実世界に来て魔法を使う事は可能。灯火の呪文程度ならばまだしも、夕映の使っている飛行、武装解除等の魔法が、世界に存在する魔力の大小によって使えなくなるとは思えない。
夕映は、魔力リンクが途絶えていた事により、他からの手助けを得ることなく、最高の環境で魔法の勉強に没頭できた。そして、正に「自分自身の力」を手に入れる事に成功した。203時間目の、夕映が初めて箒で空を飛ぶシーンは、それを証明してみせた時だったといえる。

  • そして手元に残るもの

常々考えている事がある。それは「ネギま!」の最終回はどうなるのかという事。やはりネギは先生としての責任を果たし終えた後、クラスメイト達の元から去ってしまうのではないか。
その時、ネギとパクティオーした生徒たちはどうなるのだろう。今はまだ仮契約でしかない。しかし、ネギが学園を去る頃には、誰か一人のパートナーを決めて他の仮契約者は解除するのではないか。それは、男のけじめとしてそれなりの決着が求められる可能性がある。
では、仮契約が解除された生徒たちはその後どうなるのか。
例えば、刹那、木乃香などは元々住むべき世界が魔法世界よりだった。彼女達は元々大いなる力を持っているし、契約解除されたからといって大きな影響があるとは思えない。
明日菜もそうだ。ネギによって自身の元々の「出生の秘密」が明らかになってきたとは言え、彼女自身にも強い力があるのは事実。彼女は正契約の最有力候補だが、もし契約解除がされたとしても、彼女自身の状況がそう変わるとは思えない。
問題はそれ以外のパクティオー生徒達だ。元々普通の学生だった、のどか、パル、千雨、朝倉。彼女達が、パクティオーによって活躍しているのは、あくまでアーティファクトと、彼女達自身の一般人としての力によるものだ。それに、のどかの読心、パルの具現化、千雨の電脳世界潜入、朝倉の諜報、これらのアーティファクトの力が、所有者の能力を育てているという事も無いだろう。契約解消によってアーティファクトの返還が求められるのかは不明だが、もし、ネギとの仮契約が解消され、アーティファクトが手元に残らなければ、彼女達はごく普通の一般人に戻ってしまうのだ。
しかし、夕映は違う。夕映はもう彼女自身で魔法を手に入れた。それに、彼女のアーティファクト「世界図絵」は知識を得るためのもの。知識は、それを忘れなければ自身の手元に残るものだ。例えネギとの仮契約解消されても、アーティファクトが無くなっても、最悪ネギが死んだとしても、夕映は魔法使いであり続ける。世界図絵で得た、魔法世界的にもレアになるであろう深い知識を持った魔法使いとして。
実際には、夕映が本当に望んでいるのは魔法の力そのものでは無く、ネギと共に歩む事なのかもしれない。この手元に残る事が確定している魔法の力は、そんな彼女にとって物語の最後にどのような意味を持つことになるのであろうか。
強い意志と弛まぬ努力によって、自分自身の力を手に入れた夕映。その努力に見合う幸福な未来が彼女に来る事を、強く願う。

長文書いたけど、単に夕映の活躍を思い返したかっただけなんだよね〜(^^)。
もし、最後まで読んでいる奇特な人がいたら、お付き合いありがとうございます。