イベントの舞台演出について思うこと

今、アニメ業界のイベントが大盛況だ。各社参入して、どこもかしこもイベント三昧。となると、もういい加減この業界のエンタメに対してしっかりした評価をする論壇みたいなものが出来て欲しいと思う。どこもかしこも太鼓持ちで、レポートでは良い所しか伝えなくて、都合の良く無い部分は無かったことになる。これではやはり情報の伝達や蓄積が伴わなくて、業界全体の質の向上も鈍ってしまう。興行側にとっても観客側にとっても不幸な事だ。
こんな辛気臭いことを言い立てているのには訳がある。昨年末からどうしても納得できないイベント映像を見せつけられていて、どうにも心に収まりが付いていないから。
その映像は小倉唯の「Happy JAM」BD。この唯ちゃんの記念すべきファーストライブの、彼女自身の渾身のパフォーマンスの、その映像の出来があまりに「無残」で、どうにも遣る瀬無い。
こうなることは、ライブに参加した時から分かっていた。ステージ上の演出がプロジェクションマッピングによって構成されていて、その映写されるマッピングの明度の低さから、ステージ上が絶望的に薄暗い。どんなに華やかな歌声とダンスと衣装と笑顔がそこにあったとしても、まるで雨空の夕暮れの様な薄暗さの中ではまるで映えない。
実はこのステージにプロジェクションマッピングを使うという演出は以前にも経験したことがある。それはミルキィホームズのライブ。その時もパフォーマンスは高いのにステージが薄暗くて悲しい思いをしたものだ。以来、ライブステージでプロジェクションマッピングは鬼門だと思っていたのに、よりにもよって小倉唯のファーストライブでこれが選ばれているとは。小倉唯にとって最も大切ともいえるファーストライブであることを考えると、この演出を決定した者を見つけ出して断罪したくなる。
ライブステージおいて、舞台演出、ステージの設置はとても重要だ。ライブはあくまで演者のパフォーマンスがメインだからと、裏方であるステージ演出についてはあまり多く語られる事がないように思うけれども、実際には、そのステージの印象に対して見ている者が認識している以上に影響を与えていると思う。私の様なズブの素人でも感じるのだから、しっかりとした専門知識をもった人がちゃんとした目で批評して欲しいと常々感じている。
蛇足ながら、素人ながら今まで見てきた中でどんなステージが良かったかも書いておきたい。
私の参加して居るのは女性声優のステージがメインなので、基本的には「少女的」な雰囲気を出して欲しい。となるとやはり明るいイメージが必要で、それはステージの光も明るくする方が適している。
もちろん、演者に意識を集中させる為に演者以外を暗くするという演出もあるだろう。しかしそれはステージ全体としての明度を下げることになるので、大きなステージになればなるほど辛くなる。人の感性として、明るいほど快楽を感じやすくできているから。最前列で演者一人をガン見するのならよいだろうが、遠くの席でも快楽が得られるステージにするには、やはりステージ全体が明るくないと駄目と言える。
ステージの明度を上げるにはどうしたらよいか。基本は、白色メインの舞台装置が望ましい。白塗りの単なる壁では簡素過ぎて駄目だが、逆に黒幕では光を反射しない。演出のテーマにあった舞台装置を作るとして、それは出来れば光を反射する白色がメインであると望ましい。ゆいかおりのファーストBDはそのような設定だった。その上で、舞台装置の各所に光源を置いておくと、よりステージの明度は高まる。
舞台装置を演出のテーマに添うよう実物の様に作り込んでいる例もある。これはこれでOKだろう。現実の街並み等を模したりしていれば若干明度が下がるが、テーマの雰囲気はより高まるので単なる光だけでは無い快感を与えてくれる。途中で舞台装置を替えない限り演出の幅が狭まるというマイナス面もあるが、光を演者に集中させることも出来て舞台的な印象度はいくらでも高められる。水樹奈々などが大規模なステージにも関わらず金に糸目をつけずにこの方面の演出をしている。
これら舞台装置の他に明度をあげる方法がある。それは電光掲示板だ。プロダクションマッピングはあくまで映写なので広範囲になればなるほど明度が落ちるが、電光板であればそれがそのまま光源になる。大きなステージになればなるほどステージに見合う掲示板を設置するのは難しくなるだろうが、その画面が広ければ広いほどステージの明度は増し、快楽の大きなステージになる。白塗りの舞台装置と後ろの壁一面の電光掲示板で思いだすのは、堀江由衣のセカンドライブツアーの映像だ。当時はまだ全然荒い電光板だったが、それでも明度の高い本当に素晴らしい演出だった。
そして、究極的にはステージの出来うる限り全てを電光版にしてしまうという方法もある。μ’sの5thライブなどがそれだ。μ’sのライブは、アニメ映像とダンスのシンクロを売りにしているところもあるので、スクリーン映像は絶対に必要だ。それを後方壁一面に配置するとともに、SSAの高い席から見下ろして分かる様な階段面にも電光板を配置して、ステージのほぼ全てが輝いているという演出を作り上げていた。これは、本来なら逆に光で煩くなりそうなくらいなのだけれども、演者に合わせた色の切り替えなどの演出も完璧で、変態チックなほど作り込まれているからこそ出来た演出と言えるだろう。
ステージの主役はもちろん演者だが、その演者のパフォーマンスを生かすも殺すも舞台演出次第だと思う。その事がもっと認識されて欲しいものだ。

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