魔法先生ネギま!126時間目

良い娘だなあ、パル。
赤松健は、今回はパルのお当番回と位置付けているが、確かに彼女の魅力が良く出ている。パルが図書館探検部四人組の中で唯一魔法の事を知らなかったのは、単純にその機会が無かったから。木乃香ものどかも夕映も自分自身で知ったのであって互いに教えあったりはしていない。ハルナの超人的噂拡大能力というのは教えられない要素の一つかも知れないが、なによりも、他人の秘密は例え親友にでも教えるべきではない、という当たり前の倫理観によって知らせられなかったはずなのだ。
その事をパルは理解している。だから結局あっさりと許す。けれども実際の心の内はどうだろう。例えそれが仕方の無い事であったとしても、仲間外れにされていたという事実は変わらない。親友と同じ時を過しながら、同じ事に共感できないでいたということは、大きな心の負債として積みあがっているはずである。それは本人が冗談として撤回した「死んでも許さん」という言葉に込められている。しかし、それを冗談としたばかりか、自分の噂拡大能力をあえて見せ、夕映に言い訳の根拠を与えている。
この後、ネギのアーティファクトにこだわっているが、魔法にこだわればこだわるほど「魔法を知る機会が遅れた期間」を悔やんでいる事になり、「親友たちに仲間外れにされていた期間」を悔やんでいるわけではない事になる。もちろん魔法が面白そうというのもあるだろうが、より魔法にこだわれば親友たちの罪悪感が薄れるだろうという判断もあって、あれほどまでにはしゃいでいるともとれる。大雑把なようでいて人の心の機微に敏感な彼女のこと、そういう思いやりの気持ちもあったに違いない。
今回、彼女の思いやりはそれだけではない。それは夕映の恋心に対しても同じ。前々から「ラブ臭」とかいっていたように、ハルナは夕映のネギに対する恋心に気付いていたはずである。つまり、夕映本人よりも先に気付いていたわけだ。今回、夕映に様々なカマをかけたのは、「恋心の有無」を調べたかったからではなく、「夕映自身が恋心に気付いたかどうか」そして「その気持ちをどのように心に留めているか」という事を調べたかったからであろう。
「夕映はネギへの恋心に気付いた」そして「その気持ちは親友に対する裏切り行為であるとして打ち消そうとしている」という事を知ったパルは即座に行動に出る。この夕映の気持ち、自身を偽ろうとする哀しく歪んだ気持ちを表に出してしまう。木乃香も同席させて仲間共通の問題にしてしまう。この事を知りながら、自分の益になる機会を窺い夕映が苦しむにまかせたカモとは違う、明らかに善意の行動だろう。
少し前まで「死んでも許せない」行為をしていた親友に対するこの対応。もしかしたら、彼女自身は思いやりとかで行動しているのではないのかもしれない。心の内はとにかく口に出してしまうべき、そうすればなんとか上手く行く、という彼女の気質がそこで発揮されているだけかもしれない。とにかく、内面で大きくねじれてしまったのどかと夕映の関係修復に、助っ人として名乗りをあげたのは事実だ。ほんと良い娘だと思う。
ところで、夕映の心情もかなり複雑だ。
彼女の心は「それでは困る です・・」という台詞に全て込められている。のどかがパルに嫉妬せず、あろうことか自分にキスまで薦める始末。のどかが独占欲を発揮してネギを囲い込めば自分の諦めもつくという意味で困っていると言っている。また、彼女の場合それだけの意味ではない。夕映はのどかに譲って諦めるとしても、そこに「のどかなら許せる」という感情もある。これは親友としての綺麗な感情だけではなく、「自分の代替として幸せになってくれる」という歪んだ感情も感じさせる。のどかに恋愛の手管を指示しがら、そこに自分の快楽を上乗せする。自分の恋心に気付いた今でこそ出来ないが、以前は無意識にやっていた行為。自分を親友の上位に置いて行う歪んだ欲望がそこには潜んでいる。のどかがネギを囲おうとしない不甲斐無さに困るのにはそのような微かな欲望が潜んでいるからとも言える。一度自分の心を知ってしまえば、聡い彼女の事、これらの感情も充分認識しているだろう。自分の心の情けなさに打ちのめされ、身体を震わせて立ち尽くす夕映は、なんともいえず愛おしい。
それでは、のどかはどうなのだろう。
なぜ彼女は嫉妬しないのか。彼女の中にも当然嫉妬心はある。それは麻帆良祭でのデートの時、明日菜の事をネギに訊ねた事にも現れている。嫉妬が表面化するのは自身の優位性が損なわれる時。彼女の極端に遜った性格ではそうそう表面化しようはずもない。ただ悲しみとなって現れるだけだろう。のどかはハルナのような詮索はしないが、繊細な心で物事の本質を確実に感じている。恋愛は結局当人同士の心の問題。相手の心がこちらに向いていなければそれを求めてもしょうがない。ただ自分が憧れるている事を伝えてある限り、いつか報われる時もくるはず、そんな受身の恋愛感覚を持っているのだろう。夕映の気持ちを知ったときはやはりショックを受けたようだが、最終的にはのどかが決着の方法を示すような気がする。そんな強さを彼女は持っているのではないだろうか。
いやとにかく、図書館探検部四人組の、今まで積み上げてきた問題が大展開、本当におもしろい。