「このせつ」の既成事実 〜「私 知ってたヨ」の意味するもの〜

百合妄想〜。w
206時間目において、魔法世界で離れ離れになっていた木乃香と刹那が、ついに再会を果たした。
目があった瞬間、刹那に飛びついて歓喜をあらわにする木乃香。刹那は、そんな木乃香の勢いに圧倒されてしまう。
普段、木乃香への強い想いを度々口にし、実際に態度で表してきた刹那に対し、木乃香はそれを余裕の笑顔で受け止めていた。二人の互いへの想いの深さに大小は無いだろうが、それでも、刹那の方が木乃香より、その感情の波が大きい様に思える。
しかし、実際は違った。再会に際し、我を忘れるほど狂喜したのは木乃香の方だった。ここに木乃香の、普段はその心の内に秘めた刹那への強い感情を見ることが出来る。
木乃香と刹那は幼い頃の幼馴染だ。しかし、一度離れ離れになり、二人が再会したのは中学入学の頃。(30時間目)そこで木乃香は刹那から拒絶されてしまう。しかし、それは刹那の演技だった。刹那は立場の違いを意識し、木乃香を影から見守る役に徹していたのだ。
その後、二人はそんなわだかまりを取り除き、真の親友としての仲を回復する。それは、木乃香の望みを受け、刹那が心を変化させていく様子として描写されていた。つまりこれは、物語的には「刹那の物語」であり、ここでは刹那の感情こそがより強く揺れ動いていたように思える。木乃香は、ただ与え続ける慈愛の存在として、その心は平穏なままの印象すらあった。だから、わたわたする刹那を翻弄する木乃香の姿を見ると、まるで「刹那の心を弄ぶ悪女」wの様ですらあった。
しかし、実際は違う。木乃香も刹那に負けず劣らず、強い感情を秘めている。それは、もしかしたら刹那の感情を凌駕するものだ。
刹那は、中学時代の前半、木乃香への想いを隠しつつ木乃香を拒絶していた。それは別の見方をすると、刹那にとって木乃香への想いは「自分の中で」充足していたと言える。けれども、木乃香は違う。一方的な拒絶により、自分の刹那への想いを諦めなければならないかもしれないという、辛い時期をずっと過ごしてきたのだ。よほど木乃香の方が辛かったに違いない。
二人のわだかまりが解けた時、より強い喜びを感じたのはどちらかと言えば、それは木乃香の方だったのかもしれない。普段平静に見える木乃香が刹那への愛情を露骨に表し、まるで翻弄するかのような行動をするのも、実は、木乃香の心に渦巻く刹那への強い想いが、暴走気味に噴出した結果なのかもしれない。「傷のついた指を咥える」「再会を喜びキスの雨を降らせる」、こんな心どころか体まで欲しているかのような行動も、木乃香の強い想いからのものだと考えると、彼女の刹那への想いの「質」も、改めて認識しなおさねばならないだろう。
そんな木乃香の行動の結果なのか、169時間目において木乃香・刹那パクティオー未遂目撃事件が起きた際、明日菜がちょっと面白いセリフを言っている。
「いいや私知ってたヨ?」
これは、一体何を「知ってた」と言うのだろうか。(w)
単純に考えれば、普段二人が語らう様子から、互いの心が恋愛感情にまで高まっている「雰囲気」を知っていたよ、という程度の言葉なのかもしれない。
しかし、考えてみれば木乃香と明日菜は同室だ。木乃香の刹那への強い想いやその「質」は、それが強ければ強いほど、刹那から離れたプライベートな生活の中でも、きっと噴出しているだろう。このセリフは、ルームメイトとして普段から接している「木乃香の状況」を、より深く知っていたという事だったのかもしれない。
206時間目の木乃香と刹那の再会シーンにおいて、明日菜は、二人に出来るだけ干渉しないようにとあえて無視し、楓に挨拶をしている。刹那にキスの雨を降らせる木乃香を、明日菜は当然起こり得る状況として認識していたようだ。
少なくとも明日菜にとって、木乃香と刹那の「恋愛」は、完全な「既成事実」に違いないw。
読者としても、この二人の「既成事実」を、今後も暖かく見守って行きたいものだ。