「僕にとって大切な人」という言葉について

283時間目のネギの偽明日菜への言葉。これって結構状況が複雑で、捉えどころが難しい。
今の明日菜は栞が化けている。ラカンからのお墨付きも有りそれは確からしい。しかし、それを証明する手段が見つからない。その性格は明日菜そのものだし、いどのえにっきによると、偽明日菜自身も自分が本人だと信じている。ならば、と龍宮隊長は明日菜に退魔弾を撃つ事を提案し、実際にそれを実行に移す。けれどもネギはそれを身体を張って止めて言う。「例えこの人が明日菜さんじゃなかったとしても」と。
これを聞いて違和感を感じる人がいるかもしれない。「本物じゃないのに大切な人」とはどういう事?と。もし偽者ならば、パーティに害を及ぼすスパイなのだから庇う必要は無いはず。
もしかして、そんな事をいってスパイ相手に媚でも売っているの?とすら感じる人もいるかもしれない。実際に、化けている栞はこの言葉によってかなり動揺しているので、読者的にはそう見えなくも無い。
けれども、実際にはその認識は誤りだろう。
確かに、ネギは明日菜を疑っている。それはネギの言葉からも分る。しかし、問題はその偽明日菜が完全に明日菜の人格を有しているということ。
偽明日菜が自身でも明日菜だと認識している事はいどのえにっきで証明されている。性格にも相違はまったく無い。ならば、その人物は明日菜そのものと言える。つまり、これが偽明日菜だとしたら、明日菜という人格が全く二つあるという事になる。その裏にある栞の人格は、この際関係ない。
例えば、人間コピー機とかがあったとして、自分がコピーされたとしたらどうだろう。コピーされた自分は写しだから消してもよい?もし、「自分がコピーされた側の意識だった」としても?
ここの描写では、別人格栞の感情も併せて書かれているので、まるで演じている様に思えるけれども、実際には違う。明日菜と栞二人の人格が同時に存在している。明日菜はそこにいる。それに対して傷つける事は出来ないというのは、明日菜を大切に思うネギなら当然のセリフと言えるだろう。
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それから「大切な人」と言う言葉についてもう一つ言いたい事が。
その後、ネギが偽明日菜にパクティオーの為にキスをする。それで明日菜が本物か確認する事が出来た。
けれども、それってネギ調子に乗ってるんじゃない?という意見があるらしい。確かめる為に乙女にキスするなんて、ジゴロ過ぎるとか。まあ、そう思わなくも無いけれども、実は、自分は少し違う見解を持っている。
まず、明日菜が偽者だったとして、その相手に気を配るのはナンセンスだろう。まあ、実際にはネギに心震わす乙女の栞ちゃんだったので、ひどい事をした(w)事になるのだけれども。しかし、栞はそんなことは承知の上で他人の人格を乗っ取ってまでスパイ行為をしていたのだから、それに対して心を配る必要など皆無だ。もし、化けていたのが男だったりしたら、傷付いていたのはネギだったに違いない(w)。
で、問題は本物だとしたら明日菜に対してキスした事になるということ。これは一寸ひどいよね、っていう行為には違いない。
けれども、これについてはあまり不快を感じていない。というのも、キスを「手段」に使うのが「非道」だと思うのは、それが恋愛が絡む為だと思うから。
じゃあ、ネギと明日菜の間には恋愛感情が無いの?という事になるのだけれども、元々、相手に対して異性を意識していたのはネギの方だったはず。だから、ネギが明日菜に対して恋愛を意識しながらキスを手段として行うとすれば非道と感じると思うのだけれども、どうもその様には見えない。
つまり、今のネギは「明日菜の事を恋愛の埒外に置いている」様に見える。だから不快を感じない。
というのも、最近のネギは、明日菜の事を「父が遺した娘」=姉と同様に捉えているのではないかと思える節がある。逆に言うと、このネギが明日菜にキスしたという行動が、その認識を更に強めている。
肉親に対してその身を案じ、「大切な人」だと思う。もし傷つけられる危機があったとすれば、人工呼吸で命を救うようにその身を守ろうとする。このシーンはそんな風に捉える事は出来ないだろうか。
真面目なネギがナギとアスナの逸話を聞いた後では、そう捉えた方が自然なのでは無いかと思えるのだ。
ネギの明日菜に対する想いはより深まっているようにも思える。けれども、それが恋愛感情かというと、未だ不明と考えた方がよさそうだ。
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それにしても、このキスによって偽明日菜が発覚した。その際、「偽明日菜の心」はどうなってしまうのだろう。この一週間(実は、栞が明日菜に化けていた期間は大体そのくらいらしい)の明日菜の心は死んでしまうのだろうか。
いや、その心は、きっと栞の記憶に残っている。栞がその記憶を大切にしてくれれば、その「一週間の明日菜」は死んだ事にはならないだろう。栞には、今のネギに対する気持ちと併せて、明日菜としての一週間の心を大切にして欲しいものだ。
なんといっても、それはネギにとっての「大切な人」なのだから。