ミュージカル「サ・ビ・タ 〜雨が運んだ愛〜」 青山円形劇場

やっと、見に行く事ができた。もちろん、お目当ては戸松遥。彼女の声を聞くためならば、出来るだけ沢山見に行きたいと思っていたのだけれども、なかなか都合が付かなく、公演も既に終盤。こういった演劇は生物だから、本当ならば最初と最期とか見てその違いを楽しむのもオツなのだけれども、そういった事も出来ず残念。
戸松遥の役どころは、仲の良い兄弟が久しぶりに再会し、けど二人とも人生に色々問題があって行き詰っていて、という時その場に突然飛び込んでくる少女の役。この少女がとても素っ頓狂な役で、がさつで、猪突猛進で、我侭で、けど、仕事熱心で、実は理知的で、乙女チックなところもあるという、勢いのあるキャラ。戸松遥の底抜けに明るいキャラクターと通じるところもあるけれども、実際にはそれを百倍誇張したもので、登場と同時に歌ったり踊ったり、段ボール箱に頭から突っ込んでひっくりかえったり、スカートを自分でめくったりと、もう滅茶苦茶w。すごい事になっていた。
けれども、人生に行き詰った二人の兄弟が、彼女の滅茶苦茶な行動の傍らで、自分の内なる感情を曝け出して、ぶつかり合って、そして理解しあうという流れは、感動的なものだった。笑いと感動を共に提供するという、正にミュージカルの醍醐味を体現している演目と言えるだろう。
ところで、少しこの題材について考えてみると、結構不思議な脚本と思える。というのも、この物語には「仕掛け」が全く無い。
実は、少女は二人の兄弟の問題を何一つ解決していない。少女が、何がしかの奇跡や偶然とかによって、兄弟が直面している問題を解決することがあるかと期待していたのだけれども、実際にはそれは無い。少女はその場に居合わせて一時は場を明るくするけれども、実際にはその後問題が発覚した時には全くの無力で、兄弟が和解する時もその場に居合わせることも無い。兄弟は二人だけで一瞬奇跡的に心を充足させるのだけれども、実際には本当の意味での問題解決にはなっていない。
つまり、この物語は「物語的な仕掛け」が一切無く、人生に普通にあるべき、喜びや辛さをただ表現するだけの物語といえるだろう。これだけいろんな仕掛けの出来そうな設定の中で、この決着に持っていくのは少し驚いたのと同時に、もしかしたら原作の韓国のお国柄が出ているのかなあ、とか思ったりする。
そして、やはり戸松の演じた少女のキャラ設定。これは滅茶苦茶なキャラだけれども、考えてみると若い女性には結構感情移入したくなるキャラかもしれない。実は学問があって兄弟を知識に煙に巻くこともあるけれども、実際には大変そうな仕事一つ見つけるのも一苦労で、それも若さゆえに失敗ばかりで、結局やめちゃったりとか。その場の勢いで滅茶苦茶やったり、落ち込んで号泣したりと感情の赴くままに行動する彼女は、現実には何も出来ていなくても、その存在自体が輝いている。正にヒロインだ。
そして、風采が上がらない兄は、実は家族を男手一つで育てるために自らを犠牲にしてきた底抜けに家族思いの優しい兄だし、弟も、ぶっきらぼうで怖そうに見えて、実は兄の行動に心を痛めて、やはり自分を犠牲にして兄を助けようとしていた弟であることが分ってくる。この二人の兄弟愛が一瞬だけ奇跡的な瞬間をつくるのだけれども、その儚さが胸に迫るドラマと言えるだろう。
ともあれ、物語の仕掛けよりもキャラの魅力が強いドラマといえるかもしれない。他にも、円形劇場という360度に対する演技とか、その舞台と客席の近さとか、観客参加を促す演出とか、いろんな仕掛けや魅力があり、実に満足できるものだった。

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