「魔法少女リリカルなのはStrikerSクロニクル」を読んで思うこと

この本はコミケで手に入れてきたものの一つ。今回のコミケのなのはブースはそれなりに盛況だったようだが、それはもしかしたら「ダフ屋盛況」的なものだったのかもしれない、とか邪推したりもする。限定品がなくなると即座に列がはけ、単なる先行発売のこの本などはゆったりと買う事ができた。
大判の体裁で見栄えよく、なおかつ情報がかなり幅広くまとめられていて、ムックとしては出来が良いと思う。かなり高額ではあるが、下手な同人誌を2・3冊買うくらいならば、これを見てシリーズを思い返すほうが、よっぽど良い。やはり、でかくて綺麗な図版は、それだけで充分価値がある。
さて、それはそれとして、これを手に入れるにあたって一番興味を持っていたのは、やはり作り手の言葉。
読んでみてまず驚くのが、監督の草川氏の言葉。「作品として至らなかった事」だけしか語っていない(^^;)。
主に作画の面での「苦労」について語っているが、本当にそれだけなのかは不明。そういえば、「劇場版いぬかみ!」イベントの時に、StS製作途中の監督の顔を見ることが出来たが、はっきり言ってぼろぼろだった(^^;)。丁度、努力した結果として物語としても評判が良くないという情報が届いていた頃でもあろうし、色々と心痛があったろうと少し同情した事もあった。まあ、DVD売り上げとしては立派な物だったのだから、充分報われているのだろうが。
そして、メインはやはり都築真紀氏へのインタビュー。というか、ゲーム「ワイルドアームス」シリーズのクリエータ金子彰史氏との対談として載っている。
金子氏は、一なのはファンとして語っているが、A’sの途中からなのはにはまった、典型的な「熱血目的」タイプらしい。1話でフェイトがなのはを助けるシーンを「vs暗黒大将軍」に見立てる辺りが、もろその事を示している。ただ、もちろんクリエーターだけの事はあり、なのはが「魔法少女物」をベースに発展して行った過程の重要性も充分理解している。
それに対して、都築氏は結構のらくらと逃げている印象w。「バトルものとして見られると困る」と言う様な事を言ったかと思えば、「魔法少女ものとして型にはめて作りすぎた」と反省したり。「萌えが苦手」とかの爆弾発言をしていたりもする。
けれども、その中で透けて見えてくるのが、やはりStSについてはバトルものとしてかなり意識して作っていたらしい、という事。まあ、これは作品の成り立ち自体、設定の方向性からして隠せることでもない事実だろうが。
けれども、それでは本文の中にある「能力を数値としてぶつけあうシステムは(中略)なのはの作品内容的には、それはちょっと違う」という言葉と矛盾する。
推測するに、結局StSという作品は、都築氏の想い、クリエートの方向性が「人間関係」の描写にあったのに対し、視聴者が望む方向性として「バトルもの」があるだろうという「観測」によってバトル重視へと修正されてしまっている、という状況が見えてくる。
そして、今の所StSのDVDの売り上げは好調らしい。その事実からすると、この製作方針は成功だったという事になる。
けれども、それが本当に「成功」なのかは、はなはだ疑問だ。
「能力を数値としてぶつけあうシステムは・・・」という言葉に反して、結局StSはその枠から出ることが出来ない物語に終始してしまっているように思う。そういう意味では、都築氏にとってStSという作品は失敗作、もしくは、少なくとも悔いの残る作品で終わっているはずだろう。こんな事は言葉に出来るはずもないが、実際のところ、この対談の中でもA’sまでについては手ごたえを感じている風なのに、StSについては「何かを成し遂げた」という感じの言葉は無い。あるのは、視聴者の望んだ物を提示したらしいという事と、なのはシリーズはDVD発売が完結するまで評価は定まらない、という事くらいだ。
けれども、この評価についての分析はまったくの間違いで、A’sまではネットによって高まった評価が、DVD発売によって世間に広まったという流れがあっただけ。今すでにStSが売れているという状況があるが、現在もなのはに熱い想いを寄せているファンがどのくらいいるのかは、かなり疑問だ。つまり、StSの場合はA’sの時とはまったく逆の展開を見せているといえるだろう。それは、コミケ73のなのはブースの「温度」を見てもそう思う。
個人的に思い返してみても「なのはシリーズ」はどうにも不完全燃焼であり、このまま終わってしまうとすれば残念でならない。「無印」「A’s」と高まってきた想いが、「StS」でそのまま完全に足踏みし、にっちもさっちも行かない状況になってしまっている。「StS」で新たに登場したキャラとかの事も併せて、その想いはさらに膨らんでいるとすら言える。
草川監督にして「また機会があれば」という発言をしている。都築氏も、本意の作品と感じているとは到底思えない。そして、なぜかDVDの売り上げは好調という喜ぶべき状況もある。
この冊子を読んで、「リリカルなのはシリーズ」はまだ終わって欲しくない、いや終わるべきでないという思いを、さらに強くした次第。