ネギま!の語り部は誰か?

ネギま!において、主人公はもちろんネギとして設定されているが、実は彼の内面はそれほど明確には描かれていない。様々なシーンで指摘されるように、ネギは案外謎なキャラクターなのである。そして、実際にはネギに対するクラスメイトの女の子達の方の内面が多く描かれており、読者は彼女達に感情移入できる様に作られている。そういう意味では、ネギま!の主人公はクラスメイト31人である、ともいえる。
ただ、ころころと主人公=主観の移動があっては、物語として統一感が出ず、安定しない。よってクラスメイトの中でも代表的な者が全体を通じた主人公になって物語を俯瞰していく事になる。

最初にその役に立ったのは明日菜である。彼女はネギの魔法を一番最初に知ってしまい、物語にまきこまれていく。彼女がネギを受け入れ、魔法世界に組みこまれていく過程こそが、ネギま!物語の推進力となっていた。しかし彼女もネギのパートナーとなり、ある意味完全にネギの陣営に組み込まれてしまった。そうなると、物語を俯瞰することが出来ず、別のキャラクターが必要になってくる。候補は何人かいたのだが、あまり長くその任に堪える人材はいなかった。例えば、のどかはネギへの感情が強すぎてヒロインにはなれても主人公にはなれないし、朝倉はネギとの関係が薄すぎる上に自我が強すぎた。そんな中、自然と浮き上がってきたのが夕映である。

  • 冒険編 第5巻〜第10巻(88時間目) 綾瀬夕映

夕映は、のどかをサポートするという立場で自然と物語に絡める上に、彼女の資質として物事を客観的に判断しようとする性癖を持ち合わせている。さらには、ラブラブキッス大作戦によってネギへの意識を強く持ってしまい、物語により深く、感情的に関わる資格を手に入れてしまった。まさに主人公にうってつけの人物になったのである。
明日菜を1巻〜4巻までの主人公として、これを遭遇編とすれば、夕映は5巻以降の冒険編の主人公といえるだろう。普通ネギま!を章立てて分ける場合、1〜3巻を学園編、4巻以降を修学旅行編とするが、実は4巻と5巻の間に、本当の意味での主人公の交替という、大きな変化があったのではないだろうか。
しかし、そんな夕映の時代も終わりを迎えている。それは夕映がネギへの恋心に気付いてしまった時。そのことによって夕映はネギの事を客観的に見ることが出来なくなる。彼女ものどかと同じ立場に立ったのである。また、ちょうどその頃ネギま!は武道会に突入している。これは、ネギま!という作品が、ややもすればバトル漫画になりかねないほどの大きな変化だった。そして、そんな中ひとりのキャラクターが脚光を浴びてくる。千雨である。

現在は正に千雨が主人公の時代といって良いだろう。武闘編といったところだろうか。千雨は自分の内面にストレートに入り込んでくるネギへの好意に気付いていない。若しくは気付かない振りをしている。また、彼女の判断能力は、夕映をしのぐほど自立的であり、また現実性、社会性、実用性のあるものである。ツンデレ度はかなり高いといえるだろう。ネギ自身の魅力は回を追う毎に強くなってきており、彼女の様にツンデレ度が高くなければ、すぐに陥落してしまう。彼女だからこそ今現在の主人公足り得ているといえる。
また別の言い方をすれば、ネギま!という物語が千雨を使わなければならないほど成熟した、ということでもある。彼女はネギを快く思わないキャラの筆頭だったはずである。もし、彼女がこの先ネギに完全に陥落したら、その後どのように物語が成立していくのだろうか。若しくは、その時こそ「ネギがクラスメイト達を味方につけていく」という流れが終わり、全く新しい展開が待っているのかもしれない。