シスター・プリンセス Re Pure キャラクターズを語る(暫定版)醱 〜鞠絵〜「たゆたう命」

  • ストーリー

飼い犬ミカエルを洗う鞠絵は誤って水を被ってしまう。熱を出した彼女は悪夢にうなされる。しかしそこに兄上様が現れ、悪夢から連れ出すのだった。

  • 解説

シリーズ上異色とも言える、最も深刻なストーリー。
鞠絵は設定上病弱となっているが、その病気はかなり深刻だ。療養施設に入り、一寸した事で熱を出すなど、常に命の危険があるのではないかとすら思わせる。
兄妹恋愛は近親相姦に繋がり、近親相姦は何処か死を臭わせるタブーである。しかし鞠絵の場合はその死そのものが間近にあり、前提として兄妹恋愛のタブーすら超えている存在なのではないかと思わせる。
鞠絵が見た夢は正に冥界への道行。裸足が踏みしめる地面が落ち葉から雪へと変わるのは、体温の低下を意味する。それが単に熱が冷める回復の予兆なのか、それとも命が途切れる寒さなのかは、感じている鞠絵自身にもわからない。ついには冷たくなった自分自身と出会い、それが砕け散るのを見る。正に悪夢というべきものだ。
しかし、そこに兄上様が現れ、悪夢を追い払う。鞠絵は夢から覚めて生の世界に帰還する。
ただ、それでもこの物語は、見た者の心に何か落着かない気持ちを残す。
兄上様に手を握られながら目を醒ました時、鞠絵は一体どのような表情をしたのだろうか。それは画面には表れない。
鞠絵の病気はこの後直る見込みがあるのだろうか。そして目覚めに兄上様に会えた事を素直に喜び笑えただろうか。
それとも彼女の心は既に病魔との戦いで疲れてしまってはいないだろうか。そして、兄上様にまた出会えて安心しながらも、涙したのではないだろうか。
鞠絵は穏やかな表情で兄上様に抱かれて、野原の風に吹かれる。
しかし、その表情からは、彼女のたゆたう命の行く末をよむ事は出来ない。

  • 音楽

「守りたい人がいて」
この曲は、この回を宮崎なぎさ監督自身が演出していた事もあり、その製作経緯が少しだけ判っている。
岡崎律子は元々この曲を春歌の為に用意していたが、監督からの要請により鞠絵の曲に変わったというのだ。確かに「守る」というフレーズは春歌の方が似つかわしい。
しかし、それが鞠絵の曲になった時の効果の素晴らしさはどうだろう。鞠絵にとって守るべきものは兄上様の記憶。ただそれだけを守りたい=生き続けたいという鞠絵の切実な気持ちが伝わってくる。また、兄上様の、鞠絵を守りたいという気持ちと以心する、鞠絵の気持ちと捉える事もできる。
監督をして「切る事が出来ない、全部使おう」と言わせたほど、物語とのシンクロ率は高い。
ところで、この曲の歌詞には一つ謎がある。
最も盛り上がるサビの部分。歌詞上は「抱きたい」となってい部分が、どう聴いても「泣きたい」としか聞こえない。単なる発音による聞き違いか、春歌から鞠絵に変わった時の歌詞の変更が洩れたのか。この一言で曲のイメージは大きく変わる。この歌詞の意味も鞠絵の命のようにたゆたったままだ。