シスター・プリンセス Re Pure キャラクターズを語る(暫定版)醱鄱 〜咲耶〜「終わる世界」

シスター・プリンセス Re Pure Vol.12 咲耶 [DVD]

シスター・プリンセス Re Pure Vol.12 咲耶 [DVD]

  • ストーリー

一人街をさまよう咲耶は、数年前お兄様にデートをすっぽかされた時の自分を思い出し、その道を辿る。着いたのは教会。彼女はお兄様への想いを振り返る。

  • 解説①

短編ながら、少し複雑な構造をしているお話。4つの世代の咲耶が登場する。その内メインになるのは、現在の咲耶と、数年前の咲耶。その二人の行動がシンクロしながら物語は進む。
現在の咲耶気鬱な雰囲気。季節は冬、街にはどんよりとした雲がかかっている。それはまるで、色や光の無いモノクロの世界のよう。
そして、そんな現在の咲耶の行動に数年前の咲耶の明るいセリフが被さる。それは若干幼い声ながらも、普段どおりの咲耶のセリフ。お兄様へのまっすぐな気持ち。その咲耶のいる数年前の世界は木々が萌える季節で光と色に満ちた明るい世界だ。
この二つの世界が二重写しのように描かれ、普段の咲耶がどのような存在なのかを暗示する。
数年前の咲耶は教会前の広場に辿り着く。そこではあるカップルが結婚式をあげている最中。咲耶に似た面影の新婦。それは咲耶の未来の姿だろうか。新婦の投げたブーケに思わず手を伸ばす幼い咲耶。しかしそれは別の、大人の女性の手に落ちる。
その時、咲耶は何かに気がつく。
そう、彼女はこの時初めて、自分の恋の行く末に「結婚」というゴールがあることに気がつくのだ。自分の思い付きに紅潮する咲耶
結婚式の後の教会。その花の敷き詰められたバージンードの上、マリアさまの見守る前で幸福な自分の未来の結婚式を想像してはしゃぎ、ハンカチのベールを被りお嫁さまになりきる。
しかし、この時のハンカチのベールが、その後の彼女にとってとても重要なものになる。
咲耶の想いの人はお兄様。兄妹の結婚は許されない。それは幼い咲耶も何時かは気付かされる事。しかし、それでも咲耶はお兄様のお嫁さま候補である事を主張し続けた。それがタブーであり、その結末が絶望的であったとしても、変わらぬ想いを持ち続けようとする。その為に、咲耶は心の中にこの時のハンカチのベールを被り続け、自分の心を隠し、守る。
しかし、現在の咲耶の気持ちは冬の寒さの中、疲れ果てている。それは現在の咲耶がさまよう街の風景に表されている。
そして今、荒れ果てた教会の中でそのベールが外される。
そこには、結婚を夢見た幸福な少女の顔は無い。長年、報われない想いの辛さを感じないかのよう、自らの心を偽り続け、疲れ果てた少女。その哀しみの涙がそこにある。
彼女はさらに回想する。自分が初めてお兄様への想いを口にしたのは何時の頃か。それは遥かな昔、恋の意味もわからないほどの幼い頃。その原初の記憶を思い出し、すがりながら、マリアさまに懇願する。「ずっとお兄様のそばにいさせて…」と。
しかし、無常にもマリアさまは既に目隠しをされている。彼女の願いを聞き届ける者は、誰一人居ないのだ。

  • 音楽

「Romantic connect」
許されない恋に身を焦がす少女の想いをストレートに歌った歌。正に咲耶の内面をそのまま歌にした感じだ。全てが終わった今、明日など不要という想いは実に切ない。
しかし、この許されない想いを明らかにした歌は、何故か平穏な心も感じさせる。
自分の気持ちを掴めば、そこから先に進んで行ける。
この曲は許されない恋に落ちた少女たちのポートレートにして、次の恋へのステップなのかもしれない。

  • 解説②


そして、時が経ち、春が訪れる。
冬には枯れ果てていた木々にも、新しい芽が出る。
新芽は新たな出発の象徴。それは咲耶自身が新たな出発ができた事を意味する。
咲耶の新たな出発。それは袋小路に陥った恋の続きではないだろう。兄への想いを思い出に変え、新たな恋へと向かう、咲耶の幸福な未来が暗示される。
シスター・プリンセスの世界とはどのような世界か。それは、ただ12人の妹達がいる世界…ではない。
シスター・プリンセスの世界とは、12人の妹達が兄に恋をしている世界だ。
しかし、この最後のシーン、その環は崩れる。
シスター・プリンセス」、この物語はここに終わる。