世界の王のみる夢

#1
彼女はひとり、そこに立っていた。
まわりは戦場、破壊された機械兵器の山の上、ただひとり立ち尽くしていた。
荒涼たる戦場は果てしなく続き、そこかしこに兵器の残骸が散らばる。
戦いは既に終わっていた。
もう誰も、彼女に抵抗する者はいない。
「・・・ふっ」
彼女は笑う。
「ふふっ・・・。ははは・・・っ!」
いったい何が、彼女をこのような存在にしたのだろう。
「はーっはっははははははは・・・・!!!」
哄笑は、際限無く大きくなっていく。
彼女はこのような結末を望んでいたのではない。
しかし、気付けば彼女はそこに立っていた。
世界の王の、残酷な玉座に。
#2
彼女の一族は自由人の血筋だった。
反対勢力の国の中でも、飄々と生き抜くような家系。
しかし、時代がその生き方を許さなかった。
戦争が起きた。
思想を理由に拘束され、「その因子」を持つ事を知られた。
「その因子」は、「恐れ」の対象であると共に、有益な「道具」。
自由を奪われ、記憶を奪われ、人間としての「存在」も奪われた。
「その因子」を極限まで引き出す為、あらゆる行為が行われた。
そして、一つのキカイが誕生した。
「魔法兵器」というキカイが。
国は、そのキカイの性能の素晴らしさに狂喜した。
これを使えば、世界に君臨できる。
世界の王になれる。
しかし、彼らは自分達が過ちを犯している事を知らなかった。
その因子=魔法は思考によって処理される。
膨大な魔法を扱う力は、膨大な思考能力でもある。
万全と思えた拘束機能は、膨大な思考の渦の前、一瞬で霧散した。
キカイは唯一つの物にしか従わなくなっていた。
それは「狂気」。
敵も味方も、人も機械も、全てが破壊された。
時が流れた。
そして、
荒涼たる戦場と、世界の王となったキカイだけが残された。
#3
狂気が去った。
キカイだったものは、人間に戻される。
「うああ、ああ・・・」
哄笑は、いつしか慟哭に変わっていた。
苦痛を伴う拘束が解かれ、別の苦しみが彼女を襲う。
残されたのは記憶。
数百万の命を奪った、自分の罪。
それは、戦多い人類にとって、ほんの「ありふれた不幸」かもしれない。
けれども、彼女の罪は消えない。
「・・・」
嗚咽を呑みこみ、鮮明になっていく思考の中、自らのすべき事を考えた。
そして、自分の中の重大な事実に気付く。
無理やり与えられた絶大な思考能力は、彼女に更なる力を与えていた。
「時の解明」
自分が「時間」の成り立ちを手に取るように理解している事に気付いた。
時を遡る力。歴史を変える力。それを実現する方法もわかった。
歴史に干渉し、それが未来に渡ってどのような影響を及ぼすかも理解できた。
時を操り、世界を変える。
彼女は、真の意味で世界の王になっていた。
世界の王は計画を思い描く。
・タイムマシンを作る事。
・タイムマシンは魔力を使うこと。
・自分の魔力は狂気を誘発する為封印する事。
・タイムマシンの魔力供給の為、拠点が必要なこと。
・その拠点は、計画発動の為、「ある場所」が望ましい事。
・計画発動に最適な時代を探す事。
・計画には、現地において2年間の準備が必要な事。
計画が組みあがった。
世界の王にとって、その計画の成功こそが全てとなった。
万能の存在になっているにもかかわらず、世界の王は自らの計画にとらわれる。
ただそれだけが、自分の罪から逃れる術だった。
世界の王は計画に没頭した。
#4
計画を遂行する時がきた。
まずは時間を遡る。
世界の王にとって、計画が結実するまでの時間は、辛く苦しいだけの時間。
これからさらに、2年間もの準備期間がある。
それはただ苦しみに耐えるべき期間。
既に心は硬く閉じた。
そこに何が待っていようとも、ただ計画達成だけを目指す。
だが、ふと思う。
この計画の成功の先、一体何が待っているのだろう。
罪から逃れたとして、一体何が残る?
「儚い夢のようなモノ・・・」
今、世界の王には世界の全てがそう感じる。
これから向かう世界の2年間も、その夢の一部となるのだろう。
・・・
世界の王は、過去へと跳躍する。
この時、
これからみるその2年間の夢が、彼女にとってどのような意味を持つ様になるのか、
世界の王自身知らないでいた…