コードギアス 反逆のルルーシュ 〜気持ち悪さ、極まる〜

22話を見た。凄い斜めに突っ走っている。一体何だ、これは。
ルルーシュの罪への代償は絶対的に起こり得る事だった。だから、今回の惨劇も決して有り得ない事ではない。有る意味予定調和といえる。それどころか、構成上実に上手く引っ張っていて、この予定調和を信じている私も不安になり、その演出に引っかかってしまうほど、絶妙なタイミングの構成だったといえる。
(参照:2007/3/11日記:コードギアス 〜エンターティメントと倫理観〜
しかし、その内容を見てみると、実はこの惨劇はルルーシュの罪への代償にはなっていない。
いや、ルルーシュは今回の幾多の日本人の死を自分の責任であると自覚しているので、彼個人に対する代償としては、充分重い物として描かれているといえる。しかし、これは実は真の意味での代償ではない。つまり、「彼の行動が間違っている」という「彼の罪」への代償として描かれていないのだ。この事件は、あくまで「ギアス」という、言ってみれば「SF的な絵空事」の力の暴走によるものであり、実際にはルルーシュの意志によってなされたものではない、という逃げ道が用意されている。この逃げ道によって、あれは「単なる事故だった」という言い訳がルルーシュには与えられている。
それでは駄目なのだ。ルルーシュの罪は、ギアスの力に振りまわされた、などという「単なる事故」「SF的な絵空事」の中で解決出来る物ではないはずだ。
彼は、自分の意志で血の繋がった兄を殺した。戦況を優位にする為山崩れを起こして多くの無辜の民を殺した。敵の総大将を殺す為自分と通じていた日本軍人達を餌にして爆破した。
そして、それらは全て、自分を他国を取りこむ為の道具にして捨てた帝国及び皇帝を見返す為。彼の本心には、実際には日本人を本当に救う意志があるのかすらまだ定かではない。民衆に対する思いは、単に彼の義侠心とかプライド等の実に軽いレベルでしか描かれていない。無辜の民を平気で戦争に巻きこむ彼にとって、そんなプライドで支えられているものなどはすぐに変節してしまうだろう。
彼の中には、自分の母を殺され、妹を痛めつけ、自分に屈辱を与えたものへの恨みしかない。これをテロリストと呼ばずしてなんと言おう。彼は強い恨みに取りつかれた単なる殺人鬼にすぎない。
そんな彼が真に救われるのは、自分の行いが全て間違っている事を自分自身で理解する時だろう。それは、決して「単なる事故によるもの」や「SF的な絵空事」によってもたらされるものではない。
今回の惨劇は、視聴者にとって強く印象に残っただろう。「ルルーシュは心に深い傷を負った」「哀しみを感じた」「代償を受けた」と思うに違いない。
しかし、その裏には彼の立場が正しいかのような「逃げ道」がしっかりと作られている。このままでは、ルルーシュは「心に深い罪の意識を抱えた日本の救世主」として、視聴者からはより支持を得る事になりかねない。そうなるように作っている。
うわ、すげー気持ち悪い。
一体どんな悪意を持って視聴者を騙そうとしているのだろう。
これはエンターティメントだ。「心に深い罪の意識を抱えた日本の救世主」のその後の遍歴を追うという展開は、実に娯楽性を感じさせる。これに無心になって熱中する事も出来るだろう。
しかし、その裏には、「権力」や「憎悪」、「恋愛」、「宿命」など、エンターティメントの為に人間の本能を刺激する要素であれば、どんなものであれ貪欲に使い、その結果生まれる倫理の喪失などを一切省みない、邪悪な商業主義を感じる。この欺瞞は明らかに意図的なものなのだから、その邪悪さは絶対だ。
この物語はまだ終わりではない。だから、この感覚も途中評価でしかなく、今後覆されるような展開が待っているのかもしれない。しかし、今、この瞬間視聴者を騙す邪悪な意志が働いている事だけは確かだ。これを今後、一体どう料理するのだろう。
なんとも、すげー面白い作品だ。