かなり恐ろしい、魔法世界の奴隷制度の真実

現在、魔法世界において、クラスメイトの亜子、アキラ、夏美が、奴隷に落とされている。
この事実一つを取ってみても、魔法世界がとてもシビアな世界である事が分かる。今までネギま!でクラスメイト達の楽しい学園生活を楽しく読んでいた者としては、居た堪れない思いだ。
しかし、あまり気乗りがしないのだが、この事実をもう少し詳しく考えてみたい。と、いうのも、この亜子達の境遇である「奴隷契約」という言葉について、どうにも違和感を感じたから。
実際の所、亜子達の待遇はこの奴隷契約をした事によって、逆にそれほど悪くない状況になった。亜子達は図らずも魔法世界への密入国者になってしまい、さらにそのままあてどない世界に放り出された。そのまま、自然の驚異の前に野垂れ死んでいたかも知れないし、犯罪者として投獄されていたかもしれない。この世界で彼女達の権利を守るものはまるで無いのだから当然だ。
だから、彼女達が正式の「奴隷契約」をしたことで今の境遇にあるのは、この魔法世界では案外「幸運」な部類に入るのかもしれない。
ただ、この「奴隷契約」というもの、その存在自体には、どうにも強い違和感を感じる。
案外、エロゲー界隈ではよく見かける言葉なのかも知れないが、そんな物が本当にあるのだろうか?
そもそも、「奴隷」とは何か。それは、階級の事を意味する。それも、最下層の「人権」が認められない階級の事だ。それは、亜子達が「所有物」といわれている所から、魔法世界でも同じ意味合いなのだろう。
そして、お金のかたとして、その「奴隷」にさせられる契約があるという。これは良く考えてみるとおかしな話ではないだろうか。奴隷にとって一番の不自由は何かというと、自分の望んだ仕事が出来ない事だろう。所有物として、自身の希望は無視されても仕方が無いのだ。と言う事は、普通、奴隷は自分の希望通りの稼ぎを得る事すら出来ない境遇に置かれても文句を言えない。それなのに、金を稼げは開放される「奴隷契約」などとは、かなり酷い契約といえるだろう。契約という言葉の意味すら怪しい物だ。
実際に、「奴隷」と「契約」というものは、制度として繋がる物ではない。「契約」は民事であり、「奴隷」はその民事そのものからはずされた階級だからだ。
歴史上には、金を稼ぐ事によって奴隷が市民権を得るという例があっただろう。だが、それは「奴隷」の存在が無視できないほどに多くなった社会、それも「市民」と「奴隷」の人種に違いが少ない状況において、彼らの生産力を高める為の方便として「下から上へ上がる」仕組みを作っただけだ。金が無くても市民は市民だし、金があっても、その制度に規定された金を貯めるまでは「奴隷」だ。本来、「奴隷」と「経済力」は切り離されて考えるべきなのだ。
このような考え方が、市民権、人権の基本だろう。そうでなければ、人は安心して経済活動をする事すら出来ない。
例えば、現代の日本にも「借金のかたにソープランドに売られた」などという話もあるだろう。けれども、それは借金を抱えた本人が無知であったり、暴力団の威圧などに屈して自分の意志を持つ努力を放棄した結果の雇用契約か、完全な「人身売買」としての犯罪か、のどちらかだろう。どちらも「奴隷」とは違う。
金がなければ借金「契約」をするし、それを返す為にかなり不利な雇用「契約」を結ばされる事もあるかもしれない。けれども、それと最初から人権の無い階級としての「奴隷」とは、根本から違う物なのだ。
しかし、魔法世界では違うようだ。100万ドラクマの借金のかたに「奴隷契約」が結ばれ、それは移民管理局のような公的な場所で認められている。「奴隷契約書」というものが存在する以上、亜子達のような元々この地で人権を持たない者以外でも、この契約を結ぶ事があるのだろう。
つまり、魔法世界では、どんなに普通の市民でも、経済的に苦しくなれば、人権の無い「奴隷」に落ちる可能性がある、ということだ。
これは、基本的に、全ての人間の人権がまったく保障されていないのと同じ事ではないだろうか?
「奴隷契約」などというものが公式に認められている魔法世界の社会は、人権思想が根本から存在しない、極めて冷酷で恐ろしい社会なのかもしれない。