フラットな視点、語り部としての夏美

今回(196時間目)、物語の一部始終を見守るのは、今は奴隷となって闘技場で働かされている夏美だった。彼女の一人語りで物語が進行している部分が多い。
夏美は結構不思議なキャラだ。決して目立つキャラではないのだが、ひとたび登場すると、知らない内に「主人公」をやっている。というか、彼女が「主人公」でなければ物語が落ち着かない雰囲気すらある。例えば、コタロー再登場の回(64時間目)でも「語り部」をやっているし、魔法世界に彼女が居る事が分かった前々回(194時間目)なども彼女の視点が強い。逆に、ネギ達が未来に飛ばされた時(138時間目)には、彼女が通りすがり的な、主役キャラ「じゃない」事が未来世界の「違和感」として表現されている。
夏美は、その「ごく普通の女の子」という属性から、ステロタイプとしての主役キャラの「風格」を元々持ち合わせていると言える。昔ながらの少女マンガなどでは、その全てのヒロインは彼女と同じ属性を持ち合わせていたものだ。しかし、それだからこそ、彼女の扱いは難しい。夏美は今まで何度もその機会がありながら、活躍の場を逃してきた。それは赤松健という作家が、彼女の持つ力を脅威と感じ、意識的にか無意識的にか回避してきたからではないだろうか。
そんな夏美が、魔法世界に来てから本格的に活躍し始めている。それは一体何故なのか。
一つには、この世界が魔法世界として現実離れしている事があげられる。ここで起きた事は全て夢だった、という夢オチによる弁解フラグは今も生き続けているようだ。これが採用されれば、現実世界に戻ってきた時に、夏美の影響が後を引く事も少ないだろう。
そして、もう一つの理由が、夏美の心の方向性が定まったという事。もっと詳しく言うと、彼女の恋心の相手として、コタローに照準があたり始めた為かもしれない。「普通の女の子」という属性が強いのは、その心のエネルギー、つまり恋心が他のどんな属性の持ち主よりも強く発揮されるから。「普通」である事は「純粋」に通じ、「純粋」な恋心ほど強いものは無い。そんなキャラがネギと絡んでしまえば、それこそ大変な事になるw。のどかですら危うい事になり、ネギま!は凄惨な多角関係どろどろメロドラマになりかねない。夏美はコタローという物語的には二の線(失礼!)の相手を見出した事により、やっと落ち着いて行動できる場所を得たといえるのかもしれない。
とにかく、この「夏美視点」というものは強力だ。普通の少女夏美は、全ての場面においてでフラットな視点で物事を見てくれる。
以前から、ネギま!には、その大きな物語の括りにおいて、トータルしてネギま世界観を感じ取るクラスメイト、いわば「ネギま!語り部」が存在している様に思っている。

今までその任にあたっていたのは、超編を通して魔法使いという存在がこの世界にどう関わってるのかという高い視点からの分析が可能な「観察者」、つまり千雨がそうだった。
けれども、今はその段階を過ぎている。今はもう、魔法世界と人間世界のぶつかり合い、魔法世界におけるネギという異質な存在が起す騒動こそが主眼になりつつあると言えるだろう。
その時、物語の語り部として求められるのは、よりフラットな立場の「体験者」だろう。つまり、この「魔法世界編」の、つまり今後のネギま!語り部として、夏美こそが適任なのかもしれない。
以前、その任には、魔法世界を把握している存在、美空が適しているかとも思ったが、それとは逆の線といえる。

夏美の今後のエピソードとして、コタローとの絡みはやはり描かれるべき物だろう。それと絡めて、夏美の視点が物語の本筋に向けられるシーンは今後も多いはずだ。
普通の女の子としてファンタジー世界に紛れ込んだ夏美の視点。それが今後の「ネギま!語り部」として、機能する可能性は高い。