ef−a tale of memories.総評

残念だ。非常に残念な作品だ。
結果から言うと、この作品は「下品な作品」に落ちてしまった。それ以外の何物でもない。
結局、作品が物語である以上、その物語の「品位」というものが問われるのが当然だ。その「品位」という点において、この作品はかなり低いままで終わってしまったと言わざるを得ない。
この作品には3組のカップルが登場する。
彼ら、彼女らは色々と立場は違うが、結局、紆余曲折の果てに結ばれる。まあ、その流れは良い。ラヴストーリーとして、喜ぶべきハッピーエンドを提示してくれるのに、何の問題は無い。
ただ、その3つの物語には、ハッピーエンドである事以外にも、かなりの点で共通する部分が存在する。そして、それらを洗い出してみると、かなり「みっともない事」が透けて見えてくるのだ。
・女の子が、とても弱い立場に立たされている。
・男の子は、創作活動で自立している、もしくはしようとしている。
・女の子は男の子の自立性に惹かれる。
・男の子が女の子を救う形でハッピーエンド。
…なんて、恥ずかしいw。
確かに、多くの美少女ゲームに窮地に立たされている女の子を男の子が救う、というストーリーがあるだろう。しかし、この作品ほどに、ある一つの欲望を浮き彫りにしている作品はないと思う。
その欲望とは「作品作りしている人間はモテル」という事。
ある男の子は「少女マンガ家」として活躍中。ある男の子は「カメラマン」として誰もが認める感性の持ち主。そしてある男の子は「小説家」への道を選択する。そんな男の子達に女の子は惹かれ、なびく。
これはつまり、この作品を「作っている人」たちの「作品作りしている俺達って、かっこいいんだぜ」という自意識が、前面に出ているとしか思えない。
うわ、はずい!
一人の主人公にその役をやらせるならばまだしも、3人に分散しながらもそれが浮き出てしまうという辺りに、そんな自意識の無自覚さが如実に出てしまっているといえる。
それに、そんな男の子達になびく女の子達も、ある意味「笑える」。
一人は振られた後の女の子という、ベタ中のベタ。一人は両親の不仲によって人間不信になっている女の子という、これまた結構良くある設定。そして・・・
あと一人の少女の設定は、「記憶障害」というものだった。これは、「障害者」を描くという点において、とてもデリケートな設定といえる。それだけにあまり突拍子も無い事を描くことは出来ないという事もあっただろう。
しかし、だからといって、あまりに「何も無い」結末には呆れてしまった。
13時間しか記憶できない女の子がいる→その娘と恋に落ちる→いつも一緒に居るから大丈夫。
なんて安易なw。
途中、幾度と無く描かれていた女の子の特異性は、一体どこに行ってしまったのだろう。女の子がこだわった「小説を書く」という夢はどうなったのか?その結論として、代わりに男の子の方が小説家を目指すという「まとめ」に、一体何の意味があるというのだろう。
ここでこのような結論に達した時点で、「13時間しか記憶できない女の子」というのは、他に理解者を得る事が難しい、ただ主人公にとって「都合の良い女の子」という設定に堕落してしまう。
そう考えれば、「振られた女の子」も「人間不信の女の子」も「男にとって都合の良い女の子」という点で、正に共通している。
「漫画家」とか「カメラマン」とか「小説家」を目指す、ちょっとかっこいい男の子が、「振られた」「人間不信」「記憶障害」という弱い立場の、都合の良い女の子を、ただ順当に「こます」だけの物語。
なんてチープで下品な物語だろう。
もちろん、それだけに面白くはあった。とても分かりやすく、毎回、三角関係とか、記憶障害とか刺激的な題材を、それにあった刺激的でスタイリッシュな演出と共に描くこの作品は、簡単に楽しむ事ができる。
しかし、何も無い。
あるとすれば、その映像の美しさと演出の妙くらいだろうか。それだけを目的として見た時に、この作品はそれなりの価値を持つのかもしれない。
けれども、物語として、この作品はあまりに何も無さ過ぎる。作り手の欲望という自意識が滲み出ている点において、下品ですらある。それは、そこにある綺麗な映像、演出の技をもってしても、あまり何度も触れたくない物だ。
この作品は、まだ原作ゲームとしては未完成だという。そしてアニメ作品の中では、完全に描ききれていないと思われるもう一組の男女の存在もある。一時は、その最期の男女の設定を基に、このチープな物語が大逆転するかもしれない、という希望を持ったりもした。
けれども、このアニメ作品としては、これで終わったのだ。その外側でどのような設定が付け足されようとも、このアニメ作品の、この評価は変わるはずもない。
もし、変わるとするならば、原作ゲームでアニメの物語をひっくり返すようなエンディングを提示出来、それを基にアニメ作品として続編が出来た時くらいだろうか。・・・どう考えても、ありそうにない話だ。
残念だ。ただただ、そう思う。