ネギの「最初の師」にして「人生の師」、千雨

  • 決断の承認者、千雨

205時間目現在、ネギは「戦いの師」としてジャック・ラカンに師事している。そして、「闇の道」を究めるという、ネギの人生にとって大きな意味となるであろう選択をした。「闇の道」とは、より強い力を得るのと引き換えに、後戻りが出来ないかも知れない、実に危険な選択だ。
ネギは、本当にここでこんな大きな決断をしてしまって良かったのだろうか。ジャック・ラカンに出会って数日、彼の人となりは大いに(w)想像出来るものの、それでも信頼に足る人間かを見定めるには、あまりに期間が短すぎる。実際の所、ネギの心の動きとして、ラカンを師として信頼したからこの危険な選択をした、という様子は感じられない。状況からすれば、ネギは心の中の危うさ、焦燥感等に突き動かされてこの選択をした様にも取れる。
しかし、このシーンで非常に強い印象を与えるのが、千雨という存在だ。
ネギの決断は、その心を誰に明かすでもない内に、千雨に以心していた。そして、その事はネギ自身も把握していた。この時、二人の心は、このあまりに危うい決断の際にも係わらず、完全に一つになっていたのだ。そしてネギは、この同じ心を持った存在からの承認を受け、決断を下す。この存在が、ネギの決断に強い力を与えていたのは間違いないだろう。
この存在、千雨は、ネギにとって一体どのような存在なのだろうか。

  • ネギ、その師の変遷

ネギは不思議な少年だ。あらゆる分野で人から「天才」と呼ばれる程の才能の持ち主なのに、誰に対しても素直に教えを請う心で接する。ネギが10歳にして2年A組の「子供先生」として受け入れられたのも、決して単に子供だったからではない。ネギが年上のクラスメイト達を、人生の先輩として素直に尊重し、接していたからこそ本来ならば受け入れ難い「年下の先生」を受け入れることが出来たのだと思える。ネギは、その最初からクラスメイト達全員を自分の「先生」として捉えていたのかもしれない。
そしてネギは、自分により深く学ぶべき部分がある事を知ると、その分野に能力を持つクラスメイトを自らの「師」として、師事していくようになる。
最初は、「格闘戦の師」としてくー老師を。そして、「魔法戦の師」としてエヴァを、自ら願う形で自分の師としていった。素直なネギは、一度教えを受けると、まるで綿が水を吸うかのように、その能力を伸ばす事になる。

  • 「光の道」「闇の道」

しかし、それらは技術、それも戦いの技としての能力を伸ばす教えでしかなかったと言える。ネギは、その戦いの技の急速すぎる成長ゆえに、ついに大きな壁にぶつかってしまう。フェイトという、直接的な意味でも強力な敵の前に、戦いの心の面における行き詰まりに陥ってしまったのだ。
おそらく、その心の行き詰まりは、ネギの心根にして数年の歳月をかければ突破できることだったかもしれない。それこそ、仲間と共に歩む道=「光の道」だ。しかし、ネギの心にはもう一つ裏道があった。一人で物事を極める道=「闇の道」というものが存在していたのだ。いや、ネギという少年にとって、この「闇の道」こそ今まで歩んで来た近しい道だったといえる。
ネギは、5歳の時の「あの事件」以降、ただ一人で歩み続けてきた。傍らには幼馴染のアーニャが居たが、彼女すらネギの心に割り込んでいたかどうかは怪しい。ネギは、その心に深い罪悪感を抱え、それが自分一人のものだと信じていたからだ。一人で究める道=「闇の道」は、ネギのまだ短い人生の記憶において、そのほとんどを占めるもの。ネギの「闇の道」の選択は、至極当然と言えるだろう。
魔法学校時代のネギは、そんな暗く先の見えない道をただ一人歩んでいた。その後、魔法先生として麻帆良学園に赴任した。そして、そこで出会ったクラスメイトの中の一人に、「ネットアイドルちう」こと長谷川千雨という存在がいた。

  • 「闇の道」の先達者、千雨

千雨はネットのカリスマアイドルだ。その人気はネット界一番、つまり、おそらく日本一の地位を築いているのだろう。ネットのアイドルである為には、単に顔が良いだけでは駄目だ。サービス精神や下世話な話題だけでも駄目だろう。誰よりも深い知性と、研ぎ澄まされた感性を持ち、ほんの少しだけルックスを織り交ぜながら、練りに練った戦略の元に、その地位を構築していかねば、トップの座についていられるはずは無い。千雨は、14歳の中学生にしてそれをたった一人でやり遂げているのだ。
ネギが千雨のこの事を知ったのは2年生3学期終業式の頃、結構初期の頃だ。つまり、ネギがくー老師を見出すよりもずっと早い。そして、その後もネギは千雨のサイトはずっと読み続けていたようだ。
ネギの目には、千雨という存在はどのように映っていたのだろうか。
たった一人で「闇の道」を歩き続けている自分。そして、たった一人で「闇の道」を歩み続け、No.1ネットアイドルという一つの成功を修めている千雨。ネギにとって千雨は、自分の歩む道の先を進む、正に「尊敬する人」と感じたに違いない。これは、ネギ自身がしっかりと言葉にしている明確な事でもある。
「『デカイ悩みなら抱えて進め』尊敬している ある人の言葉です」byネギ(168時間目)
ネギは、その最初からクラスメイト全員を、人生の先輩、自分の先生として感じていたかもしれない。しかし、とりわけ千雨に対しては自分の歩む「闇の道」の先達者として、より強く尊敬の念を抱いていたと思ってよいだろう。
そして、それは自分の人生の分岐点において心の支えとなる程の強い想いだった。これは、ネギがその心の部分において、千雨に師事しているようなもの。つまり、ネギにとって千雨は、「人生の師」として存在していたとすら言える。
ネギにとって、魔法学校を離れて最初に深く尊敬しえた「最初の師」、その生き方そのものに感銘を受けた「人生の師」、それが長谷川千雨という存在なのかもしれない。