Minori Chihara 1st Live Tour 2008 〜Contact〜 品川プリンスホテル ステラボール

バラードを好んで歌う歌い手が好きだ。「歌い上げる」系の曲を歌う人が好きだ。臆面も無く「何よりも歌が好き」と言ってしまう様な人が大好きだ。
何故なら、ライブという歌を歌うイベントにおいて、そのような人は「自分の人生」をも、そのステージに乗せてしまうから。自分の人生を賭けて歌を歌い、その一瞬に全てを賭けて、観客と対峙する。そんなドラマのあるライブに参加する事こそ、「観客冥利に尽きる」というものだろう。
茅原実里には「ドラマ」がある。一度デビューしたのに鳴かず飛ばず。その理由は彼女本人には無く、おそらく彼女の所属事務所と受け手との「折り合いの悪さ」が理由だったのだろう。その後、リリースも途絶え、彼女にとって歌を歌えない状況が続き、取った手段が秋葉原での路上ライブ。そこまでしてでも彼女は歌いたかったのだ。
それが、「あるアニメ作品」によって全てが変わった。「涼宮ハルヒの憂鬱」の長門役として大ヒットの渦中に投げ出された。そして、その長門のキャラソンとして、頭一つ飛びぬけた楽曲を提示した。それは、他の平野綾後藤邑子という、それぞれ独自の才能ある存在と比べても注目すべき事であり、その事実は静かに、しかし確実に世間に認められていった。ここに、彼女に再度、歌への道が開けたのだ。
また、茅原実里の役が長門で有ったのも、幸運だったかもしれない。長門の感情を極力抑えたキャラ設定は、そのキャラソンにも生かされている。その一見平板な曲調の中で感情を込めるという難しい歌は、茅原実里の歌唱方法に新境地をもたらした。涼やかさの中に強い響きが込められた歌声は、ただ一声を聴いただけで強い快感を与える。この歌声を確立した事で、彼女に今一度開かれた歌の道は、ただ開かれただけではなく、広く確かなものになったのではないかと思う。
逆に考えると、茅原実里長門役を得なければ、この素晴らしい才能は発掘されること無く朽ちてしまったかも知れない。そんな事を思うに付け、そこに実に大きな「ドラマ」を感じることが出来るのだ。
そんな「ドラマ」を持った人が、その開花した才能を思う存分発揮している。2000人を軽く超えるであろう観客の前で、その喜びを噛み締めながら歌っている。そして、それを観客として共に盛り上がり、共に感じることが出来る。これぞ「ライブ」の楽しみというものだ。
追加公演として、アコースティックコーナーを設けたり、新曲の発表をしたりと、前回の東京公演より、若干多彩な構成。そこに彼女の歌の木目細かさを聴き、ただ声質だけでない、「歌が好き」だからこその、長年の積み重ねもより強く感じる事ができた。
まずは追加公演東京会場の第1日目、大満足の出来だった。明日の公演で、このツアーコンサートは完成する。その瞬間に立ち会うまで、この胸の高まりは持続しそうだ。