ToLOVEるの主人公は西連寺春菜

今更指摘するまでも無い事なのだろうが、ToLOVEるの主人公は西連寺春菜だろう。
物語の主人公とは、つまるところその物語の読者が一番感情移入している者と言える。その物語世界の主人=物語を感じ体験している読者なのだから。その点、ToLAVEるで本来主人公であるべきだったリトは、現在その主人公としての能力を失っている。物語当初、確かにリトは主人公だった。しかし、最近では読者が彼に感情移入する事はあまり無いだろう。
なぜ、リトは主人公の座から滑り落ちたのか。それは、おそらく春菜の他にララにも気を持ってしまったからだろう。
それまでのリトは、春菜の事だけが好きなのに、好きでも無いララに振り回されているというキャラクターだった。ラブコメにおいて「好き」という感情は何よりも優先される。当初のリトは、「西連寺の事が好き」という感情を持っているからこそ、その想いが届かない状況を読者に共感され、主人公足りえたといえる。
しかし、このToLAVEるという漫画のヒロインは、実際にはララだ。リトがララに興味を持たなくては、ラブコメとして物語が進まない。そして、リトはララの魅力に気付き、春菜への恋心はそのままに、ララにも気が向き始めた。
しかし、その事によって、リトの心は読者の心に届かなくなったと言える。
リトが本当に好きなのは誰なのか。それはリト自身にも分からないようだ。ならば、当然読者にも分からない。彼の心はこの時からブラックボックスになったのだ。
最近の象徴的にエピソードとして、ララの事が好きかとリトが問い詰めらた時、おそらく読者は彼が次に何を言うのか、気を揉んだに違いない。それは、読者が彼の心を外側から見ているという証だ。
では、この時読者が一番感情移入していたキャラクターは誰かと言えば、それはおそらく西連寺春菜だ。彼女は、物語の始めから一途に頼りないリトに想いを寄せている。この想いは物語上絶対的なものとしてあり、読者は安心して春菜に感情移入することが出来る。
同じようにリトの事を一途に想っているララも感情移入の対象ではないかと言えば、確かにその面はある。しかし、彼女の場合、起伏の激しい性格からして一体その本心がどこにあるのか今一つ分からない。それは「実は宇宙屈指の頭脳の持ち主」とか「実はヤミに匹敵するくらい強い」などの追加スペックからしても感じてしまう事。一体ララとはどのような存在なのか。宇宙から来たヒロインは、未だに未知の存在なのだ。
このToLOVEるという物語は、そんな未知のヒロインララと、それに振り回されるリトによって動いている。毎回求められる要素として、エッチなシチュエーションを作り出しながら。この二人は、そんなエッチなシチュエーションになるトラブルを作り出すのに実に都合良い存在と言える。ある意味リトとララは、エッチなシチュエーションを作り出す為に利用され、感情移入の受け皿としての主人公の座を失ってしまったといえるだろう。
そして、読者の心は、そんな二人の関係を見守るキャラクターに委託される。その代表格が春菜という存在なのだ。春菜の一途な心は、リトとララの関係が変化している様子も安定した視点から把握する事ができる。リトに一途な想いを持ちながら、あまり友達の多くない自分の親友になってしまったララへの気遣いによって、複雑な恋心を抱えざるを得なくなった少女、西連寺春菜。彼女こそ、読者にとって自分の心を委託するに相応しいキャラクターだろう。
もしかしたら、今の読者にとって最大の関心事は、リトの恋の顛末がどうなるかという事より、春菜の恋が実るのか、では無いだろうか。この二つは一見同じ事のようだが、実は全然違うものだ。
ToLOVEるという作品は、エッチなシチュエーションが最大の魅力のラブコメ漫画といって良いだろう。しかし、そのエッチ要素を除くと、西連寺春菜の恋物語とする事が出来るのかもしれない。

To LOVEる -とらぶる- (9) (ジャンプコミックス)

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