電脳コイルナイト ロフトプラスワン

かなり濃いイベントだった。この電脳コイルという作品、いろんな切り口が出来る作品、つまり、色々な意味で価値のある作品だという事をよく分かっている人によって企画されている事が如実に現れているイベントだった。
第1部の特別ゲストは杉井ギサブロー監督。まったき「アニメでお茶を」を生で見る事が出来た。「アニメ芸人」を名乗る監督からの磯光雄監督への質問は、その一言がとても重い。その言外に「アニメ制作の心得」の様なものが、ビシビシと伝わってくる。ついでに、杉井ギサブロー監督の「銀河鉄道の夜」に込めた想いとかを聞くことが出来たり。もう、この第1部だけで大満足だった。
第2部は、アカデミックな見地からとの事で、東浩紀氏と山口浩氏による、社会におけるバーチャルリアリティの話。これもまた、なかなか刺激的な話だった。
第3部は制作に係わる苦労話とかだったかな。色々な裏話が聞けた。面白かった。
監督が原作者でもあるというのは、やはりアニメ界では特異な部類に入るらしい。それも、元々アニメーターとして評価の高い人によって、これほどまでにオリジナリティー溢れる作品が、これほどまでの完成度で作られた事は、アニメ史に残るほどの事だとか。とにかく、どのコーナーにおいても、磯光雄監督が話題の中心にいて、この作品が本当に「彼の作品」だという事が良くわかった。
このイベントを見て思ったのだが、結局、どんな媒体の、どんな作品であれ、物語というのは「作者との対話」なのだなあ、という事。観客が、その物語に何か特別な価値を見出そうとする時、そこに対話すべき個人がいるべきなのだろう。アニメ作品は、集団作業によって作られるので、案外その部分が弱くなる。結局、原作付き作品の原作者の事しか記憶に残っていなかったりする。
その点、この「電脳コイル」という作品は、正に監督である磯光雄との「対話」が出来る作品と言える。磯光雄という個人がこの作品を作ったという事実があるからこそ、この作品がアニメ史に残るような作品、という事もあるのだろう。
この「電脳コイル」が本当の意味でアニメ史に残るには、磯光雄がこの後も価値ある作品を作り続ける必要があるのかもしれない。監督の更なる活躍に期待したいものだ。