空の境界 第五章「矛盾螺旋」

なかなか凄い映画だった。
まず「あのマンション」が本当に映像化されているというのが、驚き。ちゃんと見ていて気持ち悪いw。その時点でこの映画の半分は成功しているといえるだろう。
そして、物語構成も絶妙。この物語の肝である「あのマンション」の構造と物語自体の構造はリンクしているのだけれども、それを明確に意識して作っている。それをする事は、かなりトリッキーな、冒険的な作り方になるのだけれども、ちゃんと観客を信じて、やれる事を全てやっている。
この「観客を信じる」という意識が、この手の作品にはとても大切だと思える。
実際の所、この映画そのものはあまり感心した作りではない。というのも、映画の中にザッピングやリピートが頻繁に出てきて観客を混乱させる。当然そのような演出もありだろうけれども、その頻度がむやみに多く「そこまで必要ない」と思えるくらいなのだ。
しかし、新伝奇などと呼ばれるジャンルは、元々狭い読者・観客層に対するものだ。その層に対して、その層の感性を信じてキリキリにチューンした映像を提示し、「これはぼくらのものだ」という「共犯意識」の様なものを感じるほどの作品を作れば、より深くのめり込めるというものだろう。
そして、ぎりぎりまで突き詰めた、いや、常識を超えてしまっているくらい混沌とした映像は、この物語の中で語られている「真理への到達」ともリンクしている。この作品を深く、本当に深くのめり込んで見ることが出来れば、何か「別の次元」に到達できるような感覚を与えてくれるだろう。
この映画は、強い感性を持って観れば、いくらでものめり込める作品と言える。その様な映像を作った時点で、この作品は大成功と思える。