ネギは、ラカンと戦う必要が本当にあるのか

亜子達は奴隷になっていて、その身請金は100万ドラクマで、格闘大会の優勝賞金も100万ドラクマで、優勝したいけれども決勝には無敵魔人のラカンがいる。
ネギ達はお尋ね者で、現実世界に帰りたくても帰りのゲートは一つしか目処が立ちそうになくて、どうやらそのゲートではフェイトが立ちはだかりそう。さらに、フェイトは魔法世界を「終らせる」つもりらしくて、お尋ね者のネギ達は誰にも頼るあてが無くて、結局フェイトをどうにかすべきだけれどもフェイトの強さは実はラカンと同じくらいらしくて、ラカンと戦えるほど強くなくちゃどうしようもない。
ついでに言えば、アーニャはフェイトに捕まっていて、明日菜も実は拉致られている。まあ、これは今ネギは知らない事だけれども。
そんなこんなで、ネギは、ラカンと戦って勝つべきだと思い込んでいるようだけど、それって本当にそうなのだろうか。一つ一つ検証していってみよう。

  • 格闘大会に優勝する必要はある?

ネギが格闘大会にこだわる必要は唯一つ、優勝賞金の100万ドラクマだ。この大金は、ネギチームがまだ少人数しか集まっていなかった頃には、どうにも目処が立たなかった金額だが、今は違う。賞金稼ぎを撃退できるほどの手練刹那や楓ならば、様々な賞金が狙えるだろう。更に、パルは独自の錬金法を既に行使しているらしい。彼女達が頑張れば、どうとでもなるような金額なのでは無いだろうか。もちろん、格闘大会より時間はかかるだろうが、別段奴隷生活にタイムリミット(早くしないと貞操の危機とか)がついているわけでもないようだし。つまり、ネギは格闘大会の優勝にこだわる必要性はかなり薄くなっているといえる。

  • フェイトと「戦わなくてはならない」場面になる可能性は?

フェイトは、ネギにとって不倶戴天の敵みたいな位置付けのキャラになっている。なので、どうしても戦わなくてはいけない様な雰囲気があるが、それは本当だろうか。
フェイトが魔法世界のゲートを一つを残し全て壊してしまった。その計画からすると、残りの休止中であるオスティアゲートを何かの目的で使う可能性はかなり高い。実際にその様にフェイトは行動している。
そして、ネギ達もそのオスティアゲートをあてに行動しているので、そこで出会う確率はかなり高いといえるだろう。
しかし、だからといって必ず戦いになるという事にはならない。今、ゲートの状況がどうなっているのか定かでは無いが、フェイトが確保しているかどうかは不明だ。確保していたとしても、ゲートの封鎖を目的としているかも不明。逆に、ここだけ残したという事は、ゲートを開けて何かを通そうとしているのかもしれないので、その隙を見て通る事が可能かもしれない。その際、フェイトがネギ達の通過を阻止するかも不明。彼の言葉からすると、ネギ達がどこにいようと問題としていないという事なので、全く干渉しない可能性もあるのだ。
つまり、ゲート通過だけを考えると、フェイトと出会う確率は高いかもしれないが、それによって戦う事になるかは、全くの未知数。戦わなくても良い場合の確率の方が高いかもしれない。

  • フェイトは倒すべき相手?

まず第一に、フェイト一味は「完全なる世界」の残党なのだろうか。状況からすると、一応そう考えても良いようだ。しかし、彼らの目的が何なのかは、未だに不明と言ってよいだろう。彼達がやったのは11のゲート破壊のみ。そこで人死にが出たという話も無い。「完全なる世界」の残党だったとして、その目的が未だに過去のものと同じとは限らない。また、過去の行動が「悪」であったのかどうかも、実際には不明だ。
フェイトが「完全なる世界」の残党である証拠も、現「完全なる世界」の行動の証拠も、その行動が「悪」である証拠も持っていない。つまり、フェイト一味の行動を阻止すべきだという絶対的な根拠を、ネギ達は全く持ち得ていないと言える。つまり、フェイトを絶対倒すべき、という根拠は全く無いのだ。

まず、倒すべきフェイトはラカン12000チサメに匹敵する強さだと言われているが、今のところそれは全く確認されていない事だ。ラカン曰く「ホンモンの」フェイトがラカンに匹敵するのであって、そのホンモンの強さを今のフェイトが出せるかどうかは未確認。少なくとも、ネギが直接戦った時のフェイトはホンモンではない、ラカンが最初に提示した3000チサメ程度の強さだったようだ。
もし、ネギがフェイトと戦うとしても、それは1対1の試合である必要は無い。味方の助力もある中、そんなフェイトをいなすだけでも充分のはず。ホンモンのフェイトになってもらう必要は無い。フェイトと決着をつけたいのはネギの欲求であり、必要があるわけではないのだ。
つまり、出るかどうかも判らないホンモンのフェイトよりも強いと言っているラカンと戦う必要は、ほとんど無いと言って良い。

  • ネギが魔法世界を守る必要はある?

一応、フェイト達が魔法世界を「終らせる」行動を取っていると仮定してみよう。
しかし、それを「ネギ達が」阻止する必要は本当にあるのか。
ネギ達がフェイトの行動を止めなければならないと思ったのは、彼らのゲート破壊活動に直接出会い、彼らが暗躍しているという事実をネギ達だけが知っている状況にあったから。逆にネギ達がテロリストとして指名手配され、誰にも助けを求められない状況もあった。
しかし、その状況は刻々と変わっているはずだ。
まず、ネギは偽名ながらも格闘家の偽ナギとして世界的な有名人の地位を既に得ている。それだけでもある程度の信用は出来ているはずで、上手く立ち回れば助力を得ようとする行動はいくらでも可能だろう。
さらに、ラカンの存在も大きい。彼が戦後20年経った今も世界的な英雄として世間から認められている事は、大会にエントリーした時点で確認済み。彼と行動を共にしているだけでも充分な信頼を得られるだろう。
そして、決定的なのがテオドラ第三皇女との接触だ。彼女は、偽ナギ=ネギである事をラカンから伝えられている。その彼女と会ったという事は、ネギが自身の身分を保証してくれる、決定的な足がかりを掴んだと言える。この時点で、ネギ達はテロリストとして指名手配される根拠を、ほぼ消せる状況になったと考えてよいだろう。
テオドラがヘラス王国の第三皇女である事も大きい。彼女は当然、魔法世界の危機に対応すべき、最も責任のある人物の一人だからだ。そして、彼女は他の「魔法世界において最も責任ある者たち」とも繋がる人物でもある。
更に言うと、ラカン自身も実はヘラス族である事が判明している。つまり、彼も本来ならば魔法世界の為に戦うべきであり、それをテオドラは知っているという事になる。ネギに言った「自分の尻」というのは全くの嘘で、魔法世界を守る戦いは、本来ラカン自身が背負うべきものの筈なのだ。
もう、この時点で、ネギの「魔法世界を守る戦い」の責任は、どう考えても本来背負うべき人たちの元に移ったと考えてよいだろう。いや、本来「先生」として第一に生徒の安全を考える責任のあるネギには、この戦いから「外れる責任」があるとすら言える。

  • 捕らわれの明日菜とアーニャについて考える

ただ、どうしても引っかかることが一つ。明日菜とアーニャが捕らわれていること。これがあるから、実際にはいつかネギはフェイトと戦わざるを得ない状況になりそうではある。しかし、これについては、今現在ネギ自身が把握していない情報だ。つまり、これをもって、フェイトに対しようと決意をする事は、ネギには「出来ない」。
現在ネギが持っている情報からすると、クラスメイトの最後の一人、夕映の心当たりはついている。それを早急に確認すべきだし、上手くすればクラスメイトは全員揃うことになる。後は、アーニャの消息が全く不明なのだが、魔法使いであるアーニャが見つからない場合は、一旦捜索を打ち切りクラスメイトだけでも返す、という決断もあるべきだろう。それは先生として決断すべき事だ。

  • 暴走する「幻想」

今ネギがやるべき事をまとめると、テオドラに事情を説明して「完全なる世界」の対策をし、金の工面をして奴隷を解放し、魔法世界の組織を使いながらゲート探索をして、とにかくクラスメイト達を安全に現実世界に送り届ける事、だと思う。アーニャと魔法世界の危機に関しては、それらとは全く別の対策と考えても良いだろう。その途中で明日菜の事が発覚しても、それはその時対応すべきことだ。
とりあえず、今は無敵魔人のラカンと遊んでいる暇は無いと思える。
話の展開の中で、様々な伏線によってネギとフェイトが、そしてネギとラカンが「戦わなくてはならない」様な雰囲気を醸し出している。しかし、それらは全て「幻想」かもしれない。その「幻想」に惑わされ、とんでもない展開になっている。
確かに、その「幻想」に突き動かされて出した結果の方が、正解だったという展開になるかもしれない。いや、ネギまならばそうなるだろう。しかし、だからといって物語の中の人物の行動が全て認められるという事にはならない。ましてや、そんな展開の中で割を食う他のキャラクターがいるかもしれないとすれば、なおさらだ。
登場人物も、読者も、作者ですらその「幻想」に取り付かれて目指しているものが、根本のところで「実は間違っていた」となったら、どうなるのだろう。
「幻想」が暴走する今のネギまは、そんなぎりぎりの峰を疾走しているように思える。