Landreaall 15巻

うん、やはり凄いね、この漫画。
登場人物たちの人格や立場が非常に深くかつ複雑で、さらに非常に口語的なセリフを使って説明が少ないから、結構読むのに骨が折れるのだけれども、読み解くに値する物語を提供してくれている。
私がこの作品に、特に感銘を受ける部分は、その「神話性」。
この作品はファンタジーだけれども、別に剣と魔法の神話時代というわけでは無い。案外時代が下っていて、実際には現実世界のフランス革命前夜みたいな事を描いている。
簡単にネタバレしてしまうと、主人公のDXは革命闘士の息子でありながら王族の王位継承権も同時に持っているという、とても複雑な立場。そして、王位とは何かとか、騎士道とはという事を、学校に入って庶民と交わったりしながらイヤでも考えさせられていく。
けれども不思議なのは、彼が元々持っている王の風格。明らかに一般人とは違う雰囲気を持つ。それでいて庶民と交わり、よく居る「貴族」とも全然違う価値観を持っている。その不思議な雰囲気に、ある者は彼に王を求め、またある者は革命の完遂を望もうとする。
彼、DXとは何者なのか。主人公でありながら、ある意味最も謎なのが彼DXといえるだろう。
そして、その謎のその根源が、この15巻で語られている。
今までにも、DXは、幻想の少女に恋をして竜と戦うという逸話が挿入されていた。彼は、そのような体験をしたからこそ、王の風格をもったとも考える事が出来た。(この逸話が入っているだけでも、Landreaallという作品は凄いと感じる事が出来る。)
けれども、それだけでは、なぜDXは竜に勝てたのか、元々竜に立ち向かえる資質を持ちえたのか、という説明にはなっていない。それは、裏を返すと、彼の資質は地位の継承から来るものという結論に達してしまいかねない。そういう僅かな「物語の解れ」を完膚なきまでに打ち消そうとしているエピソードが、今回語られている。(ここから更にネタバレ)
DXは幼少時代森に迷い込み、知能の高い槍熊に育てられている。しかし、そこで槍熊が人間の密猟者に殺されるという事件があり、DXは密猟者を殺してしまう。ここでの槍熊の精神性描写は素晴らしい。詳しくは読んで欲しいが、とにかくDXはこの事件で森から追放される。
これは明らかに「楽園追放」「失楽園」だ。つまり、DXは、一度楽園に入り、そこから出てきた「原初の人間」として設定されていたわけだ。彼の特異性は、このエピソードで完全に確立されたといえるだろう。
さらに、今回のエピソードでは、彼が自分の解釈で森に許しを請い続けていたことが判り、それが長い年月を経て認められたという描写にもなっている。
つまり、彼は楽園から認められた人物、つまり自然という「神」から啓示を受けた人物となったわけだ。
これはつまり、DXが、権謀術数渦巻く世俗にまみれた社会に、ただ一人神話に繋がっている人間として係わって行く事を意味している。非常に現代的で下世話な世界を、彼の精神が神話性をもって、その意味を照らしていく事になるのだろう。
現代的な貴族や庶民の権謀の話でありながら、同時に神話的な物語でもある。これは、ファンタジーにしか出来ない事ではあるが、ファンタジーとしてこれほど深く描いているというのも本当に凄い。Landreaallという物語が、この深いテーマにどのような決着をつけるのか、非常に楽しみになってくる巻だった。