声優界の「バンビーナの呪い」

昨日の記事「女性声優 日本武道館への道のり」をまとめてみて、気付いた事がある。
それは、そこであげた中でほぼ同じ時期に活動している四人、水樹奈々田村ゆかり堀江由衣坂本真綾が、全く正反対の二つのグループに分かれているという事。水樹奈々田村ゆかりの「地道に到達グループ」と、堀江由衣坂本真綾の「長年雌伏グループ」。その両者にはそれぞれ特徴があるのだが、その特徴を考えてみると、少し不可思議な事に気付いた。
水樹奈々田村ゆかりの「地道に到達グループ」は、もちろん元々才能のある二人ではあるが、そのデビュー当時、必ずしも飛びぬけて注目を集めているという印象は無かった。片や、堀江由衣坂本真綾の「長年雌伏グループ」は、注目度という点では非常に大きいものがあっただろう。堀江由衣は正にトップアイドル声優として注目を集めていたし、坂本真綾に関しては正にアーティスト的存在として幅広い層から支持されていた。
つまり、注目度は平均的な二人の方が先に上を目指し、注目度が非常に高い、より早く上を目指すべき二人が足踏みした。二組の取るべき行動としては逆になっている。
これは、単に個人の人格や状況によるものかもしれない。しかし、ただそれだけではなく、ある「見えざる力」を感じてしまう。
というのも、この4人の前には一つの前例がある。あの「椎名へきる伝説」が。
彗星の如くデビューし、瞬く間にトップアイドル声優となった。そして、そのライブ活動に関しても、今までの声優のイメージを覆すほどの素晴らしい偉業を次々と成し遂げた。それは正に「伝説」だった。
しかし、その「伝説」の終焉は、あまり良いものではなかった。所謂「アーティスト宣言」をしたことから、声優を蔑ろにする声優というレッテルを張られ、人気の核であった声優・アニメファンから総スカンを食らったのだ。ジリジリと集客数は落ち、何時しか武道館ライブを維持する事は出来なくなってしまった。そして、その後の声優としての活動もあまり上手くいってなかっただろう。
「声優が、声優を蔑ろにして歌手活動に勤しむと、ファンからしっぺ返しを食らう。」
この椎名へきるが自らの行動で示してしまった教訓は、おそらく、その後の歌手活動を行う全ての声優に、強く印象付けられた事だろう。正に「椎名へきるの呪い」=「バンビーナの呪い」だ。
上に行けるはずの堀江由衣坂本真綾は、この呪いを永く恐れていたのかもしれない。逆に、当初その呪いを恐れないで済む立場に居た水樹奈々田村ゆかりの二人は、その呪いを慎重に避けながら、少しずつその道を切り開いていったように思える。そうして切り開かれた道によって、呪いを恐れる必要があった堀江由衣坂本真綾も、やっとその場所に進む事ができたのかも。
あと、もう一人の声優、茅原実里の場合はどうだろう。
彼女の場合、おそらくデビュー当時からこの「呪い」そのものにかかっていたのでは無いだろうか。
浜崎あゆみを筆頭とするアーティスト集団エイベックスから送られてきた声優。それが茅原実里の当初のイメージだった。正に、「声優を蔑ろにしているに違いない」と思われてしまう立場だった。その彼女が呪いを解くのは、長門という当たり役を得て、声優としての貢献を成し遂げてから。それまでの2年間、彼女はあがき続けていた。今から考えてみると、なんとも残酷な時間の経過だったことだろう。自身の言動によるものでは無く、ただその立場によってそんな呪いにかかっていたのだから。
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この「バンビーナの呪い」は、きっと常に声優界に付き纏うことだろう。この呪いが解かれるのは、声優・アニメ文化がその他のミュージック・アーティスト文化と完全にフラットになった時に違いない。
ただ、そんな時が本当にくるのかどうか、今は確信が持てない。