追悼 川上とも子

川上とも子について、感じていた事を話そう。
やはり、最初の印象はウテナからだろうか。
可愛らしいのに、凛として堂々と響く声。それでいて舌っ足らずに甘えるような、やはりどこまでもフェミニンなしゃべり口。
男の子のようでいて女の子らしい、力強く思えたらすぐに頼りなく感じる。どうにもとりとめが無く、しかし、少年か少女かの生っぽい存在感を、強く感じさせる声だった。
ウテナははまり役だった。あの特別な役を完全に演じきっていた。
だからこそ、その後を危惧した。あの声が収まりきる役が他にあるのかと。
実際に、その後ミトとか、さつきとか、押しが強いキャラッとした声で好演しているが、ある意味、女の子としてのアクが強すぎる。強い印象を残すけれども、本気で役から声のキャラがこぼれてしまっている。上手くキャラに収まっていたのはノエルだけれども、これはこれでキャラそのものが強すぎて、ヒロインの座から外れてしまっているくらい。
ある意味、女の子声のカイブツ、と言っても良いくらいだ。
彼女の声が上手く使われたのは、実際には男の子役だろうか。女の子としての部分を押さえることで、少年の持つ中性的な魅力が香る、魅力的な男の子役を上手く演じていた。
彼女の声は、元来究極の女の子声とも言えるものであり、それを制御し抑える為には、男の子役という枷が必要なくらいなのだろう。
その頃、イベントとかで彼女の姿を何度か見かけたけれども、どこまでも下手に出る人だった。既に幾つもの主役を演じているのに、自分が人から注目されるという事に慣れていない。サインも「貰ってくれるの?」みたいな感じだったし、歌も「聞き流してください」的な感じだったし。
しかし、彼女の真価は既に表れていた。女の子声のカイブツ、究極の女の子声、それは一度役にはまれば最高のヒロイン声とも言える。
世は既にギャルゲーブームの真っ只中にあって、ヒロインとしての声が強く望まれていた。そんな中で、最も注目を集めていたのがゲームブランドKeyの作品だっただろう。そのヒロイン達を演じた声優もそうそうたるものだった。
特にKanonは凄かった。トップヒロインを堀江由衣国府田マリ子という新旧のトップアイドル声優ががっちり固め、その他のメインヒロインも田村ゆかり飯塚雅弓小西寛子とこれまたトップアイドルが、これでもかと言うくらいに固めている。そして、どのキャラもとても魅力的に作られ、実際にどのキャラにも人気が集まった。
しかし、私が最も気にかかったのは、それらメインヒロインではなかった。田村ゆかり演じる川澄舞をサポートする先輩、倉田佐祐理川上とも子が演じるサブヒロインキャラだった。私はヒロイン声の魅力として堀江由衣国府田マリ子を抜くものはそうそう居ないと思っている。けれども、ここでは川上とも子は彼女達を明らかに超えているように感じた。
この二人のキャラは元々人気が高かったという事もあるかもしれない。しかし、その声の存在感は強く印象に残っており、もしかしたらそれが理由だろうか。アニメ1作目の追加映像も、彼女達がメインのエピソードになっていた。
そして、「Air」。オタク達にとっての最も熱く長い夏とも言える作品。
そこで、川上とも子の声は、とてつもないほどの非現実感と、絶対的生々しさの現実感を併せ持って、ゲームするもの、アニメを見たものの心に激しく刺さった。アニメ版は、その後の京アニブランドを決定付けさせるほどの名作になり、アニメの新たな時代を切り開く力にもなった。
川上とも子の声は、やはり特別なのだろう。その後も、男の子声とか、少し強気な女の子声とかである程度の中に収まっていたけれども、それは、いつ牙を向くか判らない力強さを併せ持っていた様に思う。
私は、彼女が見せるそんな演技の力強さを常に期待し、彼女の演技を心待ちにしていた。
それを、待つ事ができない、また声を聞くことが出来ないと思うと、その喪失感たるや、並大抵の物ではない。残念の極みだ。
心よりお悔やみ申し上げます。

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