「仮想戦争」と「人死に」と、「騙しの描写」

今期のアニメにおいて、幾つか「戦争」を描いているものがあるが、その描き方がそれぞれ全く違って揃っているのが面白い。
実際の戦争と仮想戦争。人死にがあるのと人死にが絶対出ないもの。そして、それを描写するかしないか。
まず「トータル・イクリプス」。「実際の戦争」にして当然「人死に有り」。そしてその描写も、美少女を血まみれの肉塊にするなど、えげつないほどに描かれる。その描き方に少し問題が有る気もするが、それでも、戦争の悲惨さを逃げずに描こうという姿勢は、有る意味真っ当なものだ。
次に、少し変化球なのが「ソードアート・オンライン」。これは戦争というより戦闘というべきかも知れないが、まあ「仮想戦争」を描いている。そして、仮想であるにも係わらず「人死に」があるのが、この作品の肝とも言える。人死にを描いている以上、その戦争は本当と言える。仮想世界であるにも係わらず、いや、仮想世界であるからこそ、そこで「人死に」を描く事で人の意識や命に関して、結構真剣に考えさせる作品だ。実際には、この作品の真価は、その意味を理解してシリーズを継続されてくれなければ明確に描けないだろう。そのくらい深い作品と言える。
そして、問題なのが「輪廻のラグランジェ」。この物語は1000億もの人民が互いの存亡を賭けて戦う、本物の戦争を描いている。もちろん、この戦争には「人死に」がある。
しかし、恐ろしい事に、この作品ではその人死にが描かれない。「ジャージ部」とか「人助け」とか「鴨川」とかを前面に出して、その裏で多くの命が失われていること、おそらく主人公ですら殺人をしてしまっていることを、描こうとはしない。
これは、アニメというエンターティメントにおいて、「萌え」とかを大事にする為に、視聴者の望むものだけを描く為に、視聴者にストレスを与えないという判断なのかも知れない。しかし、これは視聴者に対する「騙しの描写」と言えるだろう。視聴者に対する誠意ある態度とは到底思えない。・・・同じサトタツ監督の最近作「モーパイ」でも同じ要素があったが、これは如何ともしがたい、個人的に情けない気分だ。
で、結局、これらの制約から外れて戦争を描いているのが「DOG DAYS’」。「仮想戦争」として「人死に無し」。もちろん、その描写もない。
この作品、最初は「人死に」の無い戦争を描いて何が楽しいの?とか思いもしたが、最近では、なんだかんだでこのストレスの無い戦争というものを楽しんでいる。「戦いは楽しい」。けど「人死に」とか「憎しみ」とかはストレスだし、それが真実味を帯びていないのならば、ただマイナスの要素だ。ならばいっそ、萌えエンターティメントとして成立させるため、それらを根本から排除するのは、一つの選択肢と言える。なにより、上記のような視聴者への「騙し」を行うよりも、よっぽど誠意があって望ましい。
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「美少女と戦争」は、オタク作品の原点ともいえるコンセプトだが、それは本来相容れないものであるが故に、両立させて描写する為に、このように作品毎、様々な立場をとることになるのだろう。
刺激をとるか、真実をとるか、萌えをとるか、誠意をとるか。それは、エンターティメントの成立が全て受け手の反応にかかっていることからも、視聴者の判断や感性に委ねられるのなのだろう。

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