アニメにおいて大人社会は描けないのか 〜TARITARIの廃校は現実的か?問題から〜

TARITARI面白いよね。
結構現実味のある設定の中なのに、ドラマの起伏があって、ちゃんと感動出来るように構成されている。
ただ、その為の「犠牲」とでも言えばよいのか、その現実味の中の「大人の描き方」の部分に、かなり恣意的な、一面非現実的なところがあるのが非常に惜しい。主人公達若者を活躍させる為に、どうしても大人が小人物ばかりに描かれている。
例えば、最初から気になっていたのが鬼教頭。主人公達に障害を作り物語を盛り上げる、ステロタイプの厳しい先生というイメージだけれども、実際の彼女の言動は、教師としてかなり疑問符が付くものだろう。その言動の裏には、無き親友へのこだわりの裏返しがあったようだけれども、そんなことは関係なく、あんな偏った教育をしていて、今まで教頭として威厳が保てていたというのは、あまりに非現実的と思える。普通に考えて、他の教師だったり保護者だったりから、何がしかの苦言が入って、面子を保っていられなくなるレベルの偏りぶりだと思う。
そして、そんな小人物的な大人が一人二人だけならば良いのだけれども、実際の所、ほとんどの大人がそのような小人物的な描かれ方をしていることが、この物語の現実味を大きく損ねているように思える。それが、「廃校は現実的か?問題」で、表面化してしまっている。
ある日突然、私立学校の校舎解体が決まり、その後にはどうやらマンションが建つらしい。その事は、学内で校長以外誰も知らなくて、学期の途中にも係わらず保護者への説明が終るとすぐに工事が入り、そのため学園祭も中止になってしまう。
・・・まあ、絶対に有り得ないよね。
実際の所、学祭中止が決定される事くらいまでは、非現実的ではあるけれども、有り得なくは無いかもしれない。非常に営利的でワンマン、かつ、かなりの権力を持つ理事長が、様々なコネを使ってこのような強引な行為をここまで推し進める、ということはあるかもしれない。だから、実は11話までは現実味も少しはあった。
けれども、ここまでこの事態が表面化したとき、この問題は「現実味の有る設定」の中で描かれているからこそ、「現実味の有る大人社会」を描かないと、とたんに嘘臭くなる。小人物的なキャラを恣意的に選んで出す事が出来ないのだから。
この計画が表面化したとき、何が起きるか。
まず、保護者が黙っていないだろう。高校生の教育環境を突然損なうなどと知った父母は、普通に考えて、受験への影響を問題にするはず。高校生の受験がその親にとってどれだけ重要かは、それが彼らの老後にも影響するのだから、有る意味死活問題だ。校長が行っていたあの説明会などは、かの東電の説明会のような、怒号が飛び交う地獄絵図と化してもおかしくないだろうw。
これが仮に、氷菓のような辺鄙な農村?であれば千反田家のような存在が押さえてくれるかもしれないけれども、どう見ても都市部だし、新興住宅街の親も沢山いるだろうから、地元の関係性などで押さえられることは、到底期待できない。
次に、PTAやOB会などで決起集会が開かれるだろう。彼らの中には、下手をすれば過去に学生運動労働組合などをやっていたもの、もしかしたら法律家や政治家も居るだろうから、それこそ戦い方を知っている力のある者達が集まってくることになる。そうなると、もう完全に戦争だ。それも明らかに学校側の負け戦w。
まずは政治だろうか。地方議員が動き、政治の世界で潰しあいとなるのだろうけれども、学校側は営利目的であるのに対し、保護者側は教育を盾に取る。どう考えても学校側に分あるとは思えない。普通に考えて、理事長のコネ議員は彼の元から逃げ出すはずだ。
そして下手をすれば、訴訟も起きかねない。例えば、文化祭が行われないなど、明らかに入学案内と違う教育環境にするはずだから、これは詐欺にも等しい。ここで、和解金とかの金の分捕りあいも起きるだろうw。
実際の所、既に建築の許可が下りていたとしたら、それを止めるのは難しいかもしれない。しかし、事は教育であり、本来であればもっと前に保護者への説明が無いとおかしいはずだ。このあたり、建築の差し止めも十分できるレベルと思える。
そうなると、もう理事長には何の権限も与えられなくなる。かの自由惑星同盟のトリューニヒトのように地に潜るしか出来ないだろう。
・・・
まあ、ここまで描けと言うのではないのだけれどもw。
若者である主人公達が活躍する為に、アニメとかラノベとかで、大人社会が上手く描かれていないということは、結構ある。それは、読者に夢を与えるという作品の価値として正しい描き方かも知れないけれども、一面、狭い視野による現実味の薄い物語となってしまう。
このTARITARIという作品は、大人と子供の関係性についても、結構しっかり描こうとしている作品だと思う。それだけに、このように現実味の薄い部分が所々存在する事が、とても残念だったりする。
ただ、最後にもう一度言うけれども、そういった部分を差し引いても、TARITARI面白いよね。