キュゥべえの矛盾 〜「魔法少女まどか☆マギカ」という作品の、本当の恐ろしさ〜

ところで、この作品をみると、どうしても言いたくなる事がある。
それはキュゥべえエントロピー論。その矛盾。
まあ、物語作りの方便なのだろうと分ってはいるつもりだけれども、下手すると本気で信じてしまう人がいるのではないかと、つい心配になる。
というのも、エントロピーって科学の基本中の基本で、物事の根源と言っても良いくらいの概念だけれども、それを説明しようとすると何故か数式とかが出てきてしまい、難しく考えてしまい「分からない」と思っている人も多い気がするから。
キュゥべえが言っている「エントロピーを凌駕する」こと、それが万物にとって良い事だとする考え方。これについて、物語の中で否定されない。その手段として人類の感情を利用することだけが「悪」とされている。
これが大いなる勘違い。
これは思想、つまり宗教的な意味合いまで含んでしなうデリケートな問題なのかもしれないけれども、これをここまで物語を推進する「核」にもってきてしまう以上、それが是か非かは明確にしなくてはならないと思う。この物語に感動して、単なる方便ではなく、これを正しいと思う人が居ないか心配だから。
キュゥべえが言う「エントロピーを凌駕する」は、まるで「宇宙に優しいエコなエネルギー」的な意味合いになっている。脱エントロピー=エコだから、少しくらい少女生贄にしても良いよね?的なw。
けどここに大いなる勘違いが有る。それは物事の本質の欠落。
「万物は、エントロピーを増大させる事を目的として、存在している。」その本質を完全に見落としている。
火も石も生物も人間もその感情も文化も、そのすべてはエントロピーを増大させるが為にある。
いや、そんなことは無い、と思う人も居るらしい。エントロビー=破壊だから、人の本質が破壊=悪であるはずは無いとか感じたりして。
しかし、それは完全な誤り。物事の表面しか見えていないからそう感じてしまうだけ。
「全ては移ろいゆく。」そういった当たり前の現象一つとってみても、物事の「破壊」は進んでいくものだとわかるだろう。人や生命の活動は、そういった当たり前の現象の中にあって、その現象の淀みを如何に無くすかという為に生まれてきたもの。生命がエネルギーを生み出すのも、エネルギーの消費というエントロピーを増大させる為に有る。
ただ、例えば、無為な破壊は生命というエントロビー増大機関の停止となるから、生命から嫌われる。人間は忌み嫌う。人間の生み出す知識、文化、科学は、エントロビー増大の為の大いなる力を情報という形に置き換えているので、大切なものだ。それを無為に破壊するのは、エントロビー増大を願う人間、生命、物質として許せない。そういった感情が働くのは当然だ。
人が、人の命を大切に思うのは、そこにエントロビーを増大させる無限の可能性があるからこそとも言えるだろう。
こういった思想は、まあ宗教的にいったら仏教では当たり前の考え方なのだけれども、どうも一神教の世界ではそうでも無いらしい。その結果、極端な思考と行動に出てしまいやすいとか。(因みに、誤解を招くといけないので言っておくと、私個人は完全な無宗教新興宗教とかもまったく駄目。一種科学の信奉者でもあるけれども、それも「もっと面白い方がよい」とか常に考えているので、いわば[オタク教信者」といえるかもしれないw)
だから、どうしても「まどか☆マギカ」には、一神教の狭窄的な思想を感じてならない。エントロビーを悪とする思想を物語の「核」にするような考え方は、「脱エントロビー=エコ」wとか、単に分りやすさの方便で使っているとは思えない。
大体、脱エントロビーと言えば、ほむらが時間移動出来た時点で、それはエントロピー逸脱の最もたるものだし。その時点でその奇跡について真剣に研究すべきだ。キュゥべえは魔女まどかとか膨大なエネルギーを見てご満悦だったけれども、本来エネルギーの発生はエントロピーそのもの。その裏でやはり膨大な街とか星とかの破壊があったけれども、エントロビーを増大させないで生まれたエネルギーとやらは、差し引きどの程度だったのか知りたいものだ。
核兵器より効率的だったのか、人類、文化という効率を高める機関を破壊するだけの価値のあるエネルギー搾取だったのか、気になるところだ。
まどか☆マギカ」は「大きな物語」だ。それだけに語っている範囲も広く、それは人の思想にまで係わるほど、本気の作品になっている。
それだけに注意したいものだ。思想とか物事の本質が、物語りの方便として少しゆがめられて語られていないか。これを娯楽としてみるとしても、そこに底辺として語られている思想が物事の本質的に誤っていることに気付かず、まかり間違ってこれを信じて自らの思想としてしまったりすると、大変な事になりかねない。思想の果てに真がないと、その時人は本当の虚無に襲われるから。それを信じたが故に、大いなる虚の淵に立たされかねない。
娯楽という誘惑は人を蕩かすが、上手くあしらわないと毒にもなる。
それは正に、キュゥべえの甘言の恐ろしさと通じるものがあるだろう。

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