ひだまりスケッチ×ハニカム 8話まで 〜独り立ちする勇者と、見守る魔法使い〜

ひだまりスケッチハニカムが、無印に匹敵するくらい面白い。特に、ヒロの卒業を悩む回から、加速がついたように感じる。

  • 「ゆのの成長物語」としてのシリーズ変遷

ひだまりスケッチ」という作品は、どうしたって「ゆのが成長する物語」だ。ゆのという小さな存在が、ひだまり荘という異世界に放り出されて、途方にくれて、失敗に打ちひしがれているとき、しかし、同居する仲間達が、彼女を見守り、助けていく物語といえる。
特に無印ではその傾向が強く、つまりは続編を考えていなかったために、このような物語の基礎となるべきエピソードを抜き出して構成していたので、密度の濃いゆのの成長物語となっていた。
アニメ「ひだまりスケッチ」3つの魅力 その1 〜構成の妙〜(2007/8/13)
アニメ「ひだまりスケッチ」3つの魅力 その2 〜見て嬉しい、各話テーマ〜(2007/8/15)
アニメ「ひだまりスケッチ」3つの魅力 その3 〜伝わる感動、全体テーマ〜(2007/8/16)
しかし、それは裏を返すと、その次のシリーズからは基礎的なエピソードが大幅に足りていないシリーズになっていた、という事も意味している。特に、無印のシャッフルされたエピソードの裏面ともいえる×365などは、その傾向が強かったといえる。成長物語としての強い物語性に欠けた、停滞感のあるシリーズだった。(その分、萌えエピソードが多いのだけれどもw)
ひだまりスケッチ×365 〜満たされて、失われたもの〜(2008/8/24)
ひだまりスケッチ×365雑感 〜うめ先生神話の補完物語として〜(2008/9/26)
ひだまりスケッチ×365特別編 〜不安の無い世界に本当の快楽はあるか〜(2009/10/18)
そして、そこから次のステップに移り変わっていたのが、×☆☆☆だ。
本来のひだまりスケッチは「動きの無い」物語であっても良かったのかも知れない。しかし、アニメによって大人気作として広く認知されたことにより、作品には今まで以上の期待が向けられた。そんな中作られた×365の停滞感は、ある種、原作の動きの無さの反映でもあっただろう。そして、作者がそういった問題点を受けとめてか、原作にも動きが生まれ始め、それが反映した作品となったのが×☆☆☆だ。
うつろいゆく「ひだまりスケッチ」 〜×☆☆☆のEDを見て〜(2010/2/1)
具体的には、ゆの達も進級し、新入生という新キャラが登場した。しかし、それが新たな「ひだまりスケッチ」として、「ゆのの物語」としてどのような意味を持っているのかというと、実際には物語の本質までには至っていなかった。つまり「物語の動き」の次の展開が見えない、尻切れトンボ状態だった様に思う。

しかし、×ハニカムに入って、物語には大きな動きが見えてきたように思う。それを証明する今までのシリーズと違う要素が、「ゆのの成功」が描かれていること。
×☆☆☆では、後輩が入ってくるなど環境に変化が生じていたにも係わらず、主人公ゆのの「小さな存在」としての立場は変わらなかった。つまり「ゆのの成長物語」としては、全く動く様子が無かった。
しかし、そういった今までのシリーズの中で積み重ねられた経験を基に、ハニカムにおけるゆのは、既に少しずつ変わっている、ということが描かれる。
ひだまりスケッチ×ハニカム 〜収穫の季節と女神の目覚め〜(2012/11/13)
それは、とても些細な事かも知れない。しかし、ゆのという存在が、ただ単に「小さな存在」「守られるべき存在」から、もっと別のものに変わっていることを少しずつ表していた。
そして、そんなゆのを「守るべき存在」となっていたひだまり荘の先輩達、特に精神的に母親的な存在となっていたヒロですらも、「卒業」という未来を突きつけられる時期がやってくる。
つまりゆのは、ここに至り環境的にも「守られるべき存在」から変わらざるを得ない状況に立ちつつある。
しかし、それは「卒業」という明らかに示されている未来であり、ゆのも深層心理では当然把握している事だろう。その事があるからこそ、ゆのはここで大きな目覚めの時を迎えているのかもしれない。それは、小さくひ弱だったゆのが、自ら生じさせた精神面の成長であるかもしれないという事だ。
そして、ゆのは一つの大きな成功を成す。2年美術科全員参加の学祭パンフコンペで一位を勝ち取る。
もちろん、それはゆのが平面を専攻しているからということもあるかもしれないが、それでも、ゆのは自身の進むべき道に、大いなる自信を持った事だろう。
この事が、「ゆのの成長物語」において、重要なエピソードになる事は間違いない。この成功を得て含羞むゆのが、今後どのような精神的成長を遂げていくのか、その期待でわくわくが止まらない。

  • 傷を負う魔法使いと、寄り添う勇者

そうした物語の激動を予感する中、一人のキャラの存在が気になっている。それは、いままで最も近くにいて、ゆのを支え続けた存在、宮子だ。
宮子は、天才だ。まるで美術を成すが為に生まれたかのような独特なセンスを最初から持ち合わせている。そんな宮子が、ゆのという「小さな存在」の傍らに居続け、ゆのの精神面を助け続けてきていた。当然、美術の実力では、ゆのは宮子に大きく水を開けられていただろうし、ゆのが宮子に美術面で教えられた事も多かったはずだ。
しかし、今回のパンフコンペでは、ゆのは宮子を抜いて見事に一位を勝ち取る。
その時、宮子はどう感じたのだろうか。やはり、ただ単にゆのの成功を喜ぶ以外の何か、心穏やかでない何かを感じていたのでは無いかと思えてならない。宮子がゆのに嫉妬するとは思えない。しかし、ゆのが成功し、言わばゆのが独り立ちしつつある様子を見て、強い寂しさも感じていたのではないだろうか。
学祭編において、宮子は怪我を負う。彼女は普段から結構無茶をするので、あまり不思議ではないが、それでもここまでの大怪我をするのは珍しい。
それは、常に明るくて、それが故に実は感情を読むことが難しい宮子の、心穏やかでない様子の証拠だったのではないだろうか。
しかし、怪我をした宮子に対して、ゆのはいつもどおりに接する。大切な友達として、宮子を最優先に行動する。
そして宮子は、そんな心穏やかではない感情を、ゆのの普段どおり気持ちに触れる事により、人知れずおさめる事が出来たのかもしれない。
・・・
ゆのは、その成長物語の主人公という点では、勇者だ。そして、物語世界を作り出す神にもなるべき存在。
だとすれば、宮子は魔法使い。尋常ならざる力を持っていて、最初は無力な勇者を助ける存在だ。
しかし、ついか勇者は成長する。そして、ただ一人で世界を救うほどの力を持ってしまう。その時、魔法使いは勇者の戦いに手を出す事が出来ない、無力な存在となる。
ただ、勇者ゆのと魔法使い宮子には、強い絆が既に繋がっている。学祭のエピソードを、正にそれを表現していたといえるだろう。
例え、本当に未来のゆのが、大いなる飛躍の時を迎える事があっても、その二人の絆は繋がり続けるだろうと信じられるエピソードだった。