To LOVEる -とらぶる- ダークネス 第8話 Bad mood 〜幸せの絆〜

実に他愛の無いエピソードだ。しかし、何故だか、原作の時から妙に気に入っているエピソードだったりする。お気に入りの美柑のエピソードだということもあるが、それ以上に、登場人物たちの関係性がとても良い。
「To LOVEる」は、典型的なハーレム萌え作品だ。原型は「うる星やつら」である事を隠そうともせずリスペクトし、その上で、「ラッキースケベ」という単語を定着させるほどに、微エロシチュエーションをこれでもかというほど盛り込む。モテナイ中高男子の究極の夢とでも言うべき作品だろう。そういった作品を作る為に手段を選ばずという態度には、清々しさを憶えるほどだw。
しかし、その手段を選ばないほど無茶な設定は、無理な状況を生む。さえない主人公に対して、彼に恋する女の子が多数。これは到底ありえない設定なのだけれども、その状況を維持しなければならない。そんなとき、どのようなエピソードを語れば、この無理な状況を維持できるのか。その答えが、このエピソードと言える。
このエピソードでは、主人公リトは有る意味全く行動しない。ここで物語に絡むのは、リトに恋するメインヒロインと、普段なら脇役というべきメインヒロインですらない女の子達。そんな女の子達が、物語の中心である主人公リトに対する心情を、互いにぶつけあっている。
美柑は、九条凛というサブヒロインとの出会いによって、結果、モモとの関係性を深めており、古手川は、春菜の案内によってやはりサブヒロインの里紗・未央と交流し、結果、ついに自身の恋心を自覚する。このような沢山の女の子が、女の子同士で交流する事で、幾つかの設定が整理され、また、新たな設定が構築されている。
物語展開で、リトを中心としたハーレムが形成されているというのは、「作品の設定として」明らかだ。しかし、それだけでは、有る意味「作品の世界観」の構築には至っていない。
このように沢山の女の子達が一人の男子を好きになったという設定であるならば、その女の子達同士は、どのように係わりあうのか。メインヒロインが係わるは、主人公とメインヒロイン以外に誰がいるのか。そういった「当たり前のこと」が、この「非現実的な設定」の中でも当たり前として機能しているように描かれていなければならない。その「当たり前のこと」が機能的に描かれた時、初めてその「非現実的な設定」の「世界観」が構築されたといえるだろう。
無理な状況の中で、無理な設定同士が主張し、干渉しあうことによって、「あるべき場所」に収まっていく。そうした中で、そんな無理な設定でありながらも、「特異な世界観」が出来ていく。物語が人から求められる要素の中で、最も旨味の有る事は、そんな「特異な世界観」を感じさせる事ではないかと思う。
「To LOVEる」という物語が、「モテナイ中高男子の願望充足」こそを最優先して構築された作品である事は間違いないのだが、その過程で「特異な世界観」が構築されていくというのは、なんとも面白い事だ。
こうして構築された世界観は、エピソードを進めることによってより物語の密度を濃くしていく。物語そのものの魅力を増していく。それは、一種ナマモノである物語の成長と言えるだろう。このエピソードは、そんな物語の成長する様子を、とても強く感じる話なので、とてもお気に入りなのだ。
「To LOVEる」という物語が、これからどのように成長していくのか、末永く見守りたいものだ。