ラブライブ!8話 〜歌乙女の誕生〜

いや、この回は特に素晴らしかった。正に、今までの積み重ねの集大成。
穂乃果がμ'sの中心にいるとすれば、絵里は一番外にいて、今までμ'sの活動を阻害してきた存在。言わばμ'sという卵の、殻のようなもの。その殻がこの回で破れ、正にμ'sという存在が世に生まれた様を描いている。
この二人の対比は、第一話から明確に描かれている。学園の廃校に際して絵里が何をすればよいのか考えているときに、穂乃果がその答を見つけているという、二人の道が分かれる様を、同時進行で描写している。
その後も、二人の感情の発露は常に対比として描かれていて、穂乃果が自分の心を開放しているのに対して、絵里の感情は全くというほど描かれていない。
この8話の白眉は、そんな絵里がついに心を開放するところなのだけれども、そこに至る経緯が良い。というのも、何故絵里がアイドルをやりたいと思ったのかと言う事について、明確に語られて「いない」というところが。
希が絵里に対して「理由なんて無くてもよい」と言ってはいるけれども、人の心はやはり何か理由がなければ動かないだろう。絵里にもその理由は存在するはずだ。しかし、それは物語の展開上明確なセリフとして存在していない。あるのは、彼女が昔バレーをやっていて、挫折したことがあるということくらい。
しかし、それでも物語を追っている視聴者は、この展開を素直に受け入れられる。絵里の感情は全くというほど描かれていないというのに、実は、彼女がアイドル活動に憧れていたということが、なんとなくわかってしまう。これは、視聴者が「絵里は元々ラブライブのメンバー」と認識しているからとかではなく、物語の流れとして、彼女の感情の湧き上がりとして、納得できることだ。
なぜ、納得できるのかというと、それこそ、絵里が穂乃果と対比的に描かれているからに他ならない。
やりたいことをやりながら廃校阻止を目指す穂乃果と、やりたいことしないで廃校阻止を目指す絵里。二人は、立場の違いによって全く違う道を歩んでいるものの、その目的は同じ。
その絵里の道の根本には、「バレー」というアイドルのダンスと同質の夢があるのに、「人から認められなければ結果が残せない」という挫折によって、深く封印されている。だからこそ、絵里は安易に「やりたいこと」「アイドル」に走る穂乃果の行動を認められず、彼女の行動に惹かれれば惹かれるほど、その行為を阻害したり、ことさら違う道を歩もうとする。
絵里の感情はここに至るまで全く描かれていないのに、このような彼女の心の流れが、この一瞬の感情の爆発によって、一気に解明されていく。感情が描かれていなかった彼女の無表情の裏側にあったものが、過去にさかのぼって全て推測出来てしまう。だからこそ、特に彼女の感情を説明するセリフなどが無くても、それを納得することが出来る。見ている者としては、この一瞬に、一話から今まで全ての彼女の心が去来するので、深い感動を感じることになるという訳だ。
絵里が感情を爆発させ、自身の感情に戸惑い虚心しているところに、穂乃果が手を差し伸べる。この一連の、無音からBGMが流れるまでも、実に素晴らしい。
そのとき、全くの静寂の中から、まるで命の胎動のように、鼓動が聞こえ始める。それは、μ'sというアイドルグループの鼓動そのもの。絵里というμ'sの殻が、彼女の心の殻と共に破れ、そしてμ'sというアイドルグループが生まれ出た、正に今こそ命を持ったということになるのだろう。
ついに生まれた9人の学園アイドルグループ、真のμ'sの活躍が、これから始まる。
今後の展開も、大いに楽しみだ。

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