アイカツ!における物語の大構造 〜月と太陽の物語〜

最近、アイカツに嵌ってしまった。以前から好きな作品ではあったのだけれども、「嵌った」のは最近。具体的には、32話「いちごパニック」を見てから、後戻りが出来無いでいる。というか何をおいてもアイカツのことばかり考えているw。
なぜ「いちごパニック」で嵌ったのかと言えば、その一話で「物語の魅力が一定の水準を超えた」と思えたから。
物語の構成については、よくこういう事がある。それまでに提示された小さな設定が積み重ねられ、そしてある一話で重要な要素が語られることにより、その「上」に存在する物語の大構造が透けて見える時が来る。それに気づいてしまうと、今までの話も含めて作品すべての「レベルが上がる」感覚を覚える。それを感じてしまうと、もう後戻りが出来ないw。
それにしても、気付くのが遅いとも思う。本当に情けない話だが、ここに至るまで、アイカツをある意味舐めていた。やはり、少女向けアニメということで、少し流してみていた。しかし、もう「気づいて」しまえば、どうにも抗う事が出来ない。
「いちごパニック」で語られていることは、決して全体構造そのものの要素ではない。
主人公いちごは、あるとき自分の仲間たちとのライブと自分のアイドルとしてのステップアップに欠かせない重大なCMの仕事をバッティングさせてしまう。しかし、仲間たちのバックアップもあり、両方をやりくりして何とか両方とも成功させるというお話。仲間たちのバックアップが、本当にいちごの事を大切に思う気遣いを感じさせるものであり、実に良い話だ。
ただ、そこに至る中で、一つだけ気にかかる点がある。それはバックアップを手伝った一人である後輩のさくらだ。彼女はライブの参加メンバーではないのだけれども、後輩としていちごが両方の仕事に出られるよう手伝っている。
ここに、言わばいちごの「辛さ」が感じられる。いちごは、途中で「このままでライブをやってよいのか」と弱音を見せる。これは、明らかにさくらの事を意識してのことだろう。例えば、いちごが辞退さえすればさくらがライブに参加できるかもしれない。いわばいちごの「無理をしてでもライブをやりたい」という「欲」によって、さくらの機会を潰している。きっといちごは、一時はライブを辞退して、具体的にさくらに譲ることすら考えていたに違いない。
しかし、その事を意識しながらも、いちごは、自身が「アイドルとしてステージに立つ」という道を選んだ。この選択こそが、「いちごというアイドル」の存在に対して、とても大きな意味を持っていると思う。
言わば、いちごはこの時「アイドルとしての業」を背負った。自身が輝く事で、他のアイドルが陰に隠れる。今までにも、オーディションでそういった事は経験してきたけれども、この時のいちごの選択で大きく違うのが、自分の意志により、その影を作り出したということ。アイカツシステムというオーディションシステムのせいに出来ない状況だったことだ。
そしてこのことが、「いちごというアイドル」の、「アイカツという物語の大構造」の中における立ち位置を、強く示唆することになっている。
実際には、これは逆説的なエピソードと言える。いちごは、今まで自分の周りにいるアイドル達を助ける機会が多かった。最大のライバルとも言える親友あおいからも十分な理解を得ているし、どんな時でも他のアイドルを蹴落とすような考え方だけは絶対にしないし、逆に助ける事しか考えない。互いに高めあうという関係によって、仲間と言える存在が周りにどんどん増えている。
そんないちごだからこそ、今回のさくらへの心情は、とても「辛い」ものであったと思えるし、このことは、きっといちごの心に留まっているはずと思える。つまり、それは彼女にとっての「業」となっている。
そして、そんないちごと言わば相対する存在はと言えば、もちろん美月。アイドル界の光輝く月として、アイドルのトップ中のトップ。彼女の前には、誰もが霞んでしまうであろう、言わばアイドル界における実力主義の象徴ともいえるだろう。
この二人は、片や並ぶものが者がいないほどの大スター、片や少し前まで町の弁当屋の娘という、まったく境遇の違う存在でありながら、いやだからこそ、アイドル界において全く違うアイドルとして、言わば相対していく宿命があるのではないか。
実力主義を推し進める、しかし孤独と戦い続ける大スターと、仲間のアイドル達にも光をあて続け、共に高めあっていく、その中心にいるもう一人の大スターとして。それこそが、アイカツという物語の大構造ではないか。
このことに、いまさらながら気づかされた訳だ。彼我の差があまりに大きいので、こんなに気付くのが遅くなってしまったのだけれども。
そして、改めてアイカツを見てみると、この二人は、最初に対面した時から、この問題について明確に対立している。(第二話)
さらに裏設定まで考えれば、実力主義アイカツシステムの象徴とも言える織姫校長の立場を美月が代弁しているとすれば、その「ヒメ」と昔ペアを組みながら、道を違えて消息を絶った「ミヤ」は一体誰か。その心根を継いでいるのは誰にあたるのか。
アイドルとしての業を認識し、よりアイドルという存在について深く考えるようになったであろういちごは、今後、どのようなアイドルになっていくのか。
もしかしたら、月の光の強いスターの輝く夜を、劇的なほどに変える、夜明けの太陽になるのかも。

今は、美月に初めて動きが出てきている。トリオを組むというのだ。それは、孤高の存在からの脱却を意味しているのか。それとも、ただ自分と同じ高いレベルのアイドルを探すものなのか。
物語の展開としては、まるで「たけし城」のような描写で軽い感じだが、その展開から生まれる結論の意味は深い。
美月とトリオを組む2人の枠の内一人は、メリケン産のトップエンターテイナーであった新しいアイドルかえでが獲得した。つまり、美月の態度は保留された。いや、このことでいちごの「敵」である美月の力が、より増したとも言える。
では、最後の枠に誰が入るのか。実はその結論はもう見えているようだが、その結論によって、いちごの立場がより鮮明になるのは間違いないだろう。もしかしたら、途轍もなくドラスティックな展開すら考えられる。
ここのところ、毎週、息を詰めながら見ている。私にとってアイカツとは、そういうアニメになっている。
本当に、「アイカツ!」は面白いなあ。