アイドルマスターシンデレラガールズ第7話を解説する

アニデレの第7話のお話の構成が素晴らしくて感動するレベルだったので、少し語りたい。
まず、前回の未央の闇堕ちはアイドルものとしては結構鬼門。期待していたファンが居ないことにショックを受けてアイドルを辞めるとまで言いだす。しかし、この話をまとめるのは難しい。というのもアイドルとは本来ファンに期待してはいけないから。
アイドルは本質的に自分の為に活動しているけれども、その想いを見ているファンに押し付けてはいけない。ファンはアイドルを助けてくれる存在であって、それだけにその助けの多い少ないを非難する事は出来ないから。
アイドルはファンの反応を期待して活動するものなのに、実際の態度としてファンへの期待を見せてはいけないという矛盾がある。その矛盾を克服することが、アイドルの第一歩と言っても良い。それが克服できて無いアイドルは「痛い」と思われてしまう。
ネットで6話の評価が低くて、最近はシリアスものやるのは駄目なのか、とか言われてたけれども、これについては実際には未央のアイドルにあるまじき態度そのものに違和感を感じて評価を下げたというのが正解だと思う。
ともあれ、これを物語として復活させるのが第7話なのだけれども、その復活に必要なのは結局本人の「気付き」でしかない。で、実際には未央はPから見せられた観客の写真を見て気付くという展開なのだけれども・・・この展開、もしここだけ抜き出して観客に見せたとしたら、未央の駄目っぷりだけが印象に残ってしまったことだろう。
で、ここで物語構成の力が必要となってくる。未央は自分のアイドルとして欠けている部分に気づくのだけれども、その気付きはネガティブにふさぎ込んでいる時に起こさなくてはならない。つまり彼女自身は「努力無しに」復活せざるを得ない。実はこれが問題。何の努力もせずに物事が好転するというのは物語として腑に落ちないことになるから。
で、彼女の代わりに行動する存在としてPがクローズアップされる。
PにはPとしてアイドルの心に踏み込んでいく自信が無いという弱点があることが分かり、それを克服するという展開になる。この弱点については風邪を引いて一人だけ別格になっていた卯月の言葉により力を得て克服し、雨の中、未央の部屋の前に立つことで彼女に訴えかけることになる。つまりPが努力することで未央の復活が成る、という物語の型を作ることに成功している。
ここで更に上手いと思うのが、Pが雨の中警察に職質されること。Pのこの立ちんぼは実は決意した後の一回目で、以前未央に追い返された時と変わらないはず。つまり大して努力している訳じゃないのだけれども、職質されたことが凛の時とダブるために、視聴者にPの努力がイメージとして乗ってきて説得力を与える。ひいては未央への説得力として納得させられることになる。
他にも、凛が未央と卯月が居なくなったことにより、やはりアイドルを辞めるところまでいってしまいそうになるのも上手い。
凛はアイドルへの動機が最も薄いから、こういった時には最も脆いということが明確に表現される。と同時に、未央のアイドルとしての認識の無さ、Pのプロデューサーとしての自信の無さ、凛のアイドルとしての動機の無さという三人の弱さをまとめて表現することで、元々は未央一人の問題だったものが、チームの問題とその解決という展開になり、気が付いたら未央の駄目っぷりが分散して認識し辛くなっている。
いや、最初はどう描くのかドキドキだったのだけれども、ここまで上手く着地させるとは思わなかった。本当に素晴らしい。
他にも、卯月のお部屋訪問で、寝癖パジャマ姿の飾らない彼女の笑顔こそが今回の話の転機となるという物語の意味性や、アイドルへの運命が狂った時のバラバラな時計の針とか靴が割れた事をイメージさせるガラスの破片とかの演出も光ってた。
前作アニマスはアイドルアニメとして素晴らしい出来だった。そして、アニデレのアイドルアニメとしての面白さをアニマスと比較して改めて考えてみると、それは「未完成なアイドルの成長」を描くことではないかと思ったり。
アニマスの765プロのアイドル達は、確かに最初は技量とかは足りていない部分があったかもしれないけれども、その心だけは最初からアイドルとして完成していた。それはもう奇跡の存在のように。おそらく、アイマス世界において彼女達765プロの存在は、今後、決して揺らがない絶対的なアイドル像として君臨していることになるのではないだろうか。
対してデレマスのアイドル達はアイドルとしてどこか足りていない所があり、そんな彼女達を描く事で、前作アニマスとの対比となっている気がする。
いやほんと、アニマスがアイドルアニメとしてとても素晴らしい出来だったのに、その素晴らしい作品を、その世界観を拡大するかのように拡充していくアニデレはより素晴らしいと思う。
アイドル・ワールド。一つの世界が創造されていく感動的な瞬間に立ち会っている気分。