天体のメソッド プレミアムイベント 新宿文化センター大ホール

原作の久弥直樹と言えば伝説的な脚本家。 熱心なファンではなかったので詳細はもう忘れてしまったけれども、泣きげーの基本を作った萌えオタ文化の中興の祖というべき大偉人なのに、ある時から第一線を離れてその後の動きもどこか不可解な人というイメージだ。
そんな人が久しぶりにガッツリ作品を作るのだからやはり期待はしたくなる。しかし、実際に語られる物語はどこか???な展開で、作品自体かなり不可解なものとなっていた。
おそらくは、その感性からして常人を超えている内容。とてもセンシティブでデリケートでミステリアス。人がその感性の最も深い部分で感じているような事をごく普通な事として表に出してしまうキャラ同士の関わり合い。なぜそこで論理的な会話が出来ないのか、なぜその行動が赦せるのか、理解できるのか、傍からみてると不可解な行動の連続となっている。
実際には、とても単純な精神の回復物語であり、そのあらすじは十分追える。しかし、その展開については常軌を逸しているくらいにもどかしかったり理解不能だったりして、やきもきせざるを得ない。
この作品は偉大なる失敗作だ。こういった作品を作るような感性の人だからこそ、あの当時、全く新しい萌えオタ文化の地平を拓く事が出来たのだというモニュメント的な作品。
単純なストーリーラインは、それを追うだけでも十分泣けるようになっている。しかし、それ以上に、この作品を構築している精神そのものを感じる時、そこに、泣きげー文化、萌えオタ文化、オタク文化の精神の骨格とでも言うべきものに触れているような感覚がして、深い感動が込み上げてくる。そう、この精神にこそ触れて、この文化に心酔したのだと言うことを思いださせるから。
主人公乃々香は全てを忘れて、しかしかの地に帰ってくる。そして思い出す。しかし、思い出す事が一つの世界の消滅に繋がり、そして・・・
ここに書かれていることは本当にファンタジーだ。現実には、かの地に帰っても、その昔を思い出しても、それはそのかつての世界の消滅を確認することにしかならないのだから。
最後のシーン、あの美しい世界は、現実ではもう本当に心の世界の中にしかない。それこそを映像にしたこの作品は、真の意味でファンタジーとして昇華している作品と言えるかもしれない。ある意味凄い作品だった。
イベントは、そんなこちらの心境とは全く関係無いw、健全なものだった様に思う。キャストはとても素直に感動の物語を思い返し、各シーンを語り、ゲームなどで盛り上がっていた。
そして、ライブ。その楽曲は多岐に渡り、泣きげー由来の楽曲の強さを存分に感じさせるボリュームで、この世界に浸ることが出来た。
また、イベントでは来場者全員に財産整理とでも言うかのように生原動画が配られていた。私が受け取ったのは、何かを失い呆けている様子の乃々香。それは、正にこの作品に触れた私の心境とリンクしているように感じた。
この作品に、心のとても深い部分に小さな穴を開けられた気分。