なのはシリーズの「感動力学」を分析する

StrikerSの総評において「都築ワールドとして完成しているのは評価できる」という事を書いたが、それでもなお、納得できない点はある。それは、この作品は2クール、26話という長い尺をもらっているのに、「感動の量」という点では前々作「無印」、前作「A’s」1作分にも達していないと思える事。
ここで、ちょっと物理っぽい言葉を使って「なのは」シリーズの感動の構造を分析してみたい。
ちなみに、この文の性格上、思いっきりネタバレです。

この作品の感動の構造は結構単純。
まず、なのはという少女がいる。この少女は実は常日頃より「正義の味方になりたい」と思っている少女である。この動機は強い愛を感じる家庭環境から来るもの。この「正義の味方」の心は、人を引き寄せる力=引力。
対してフェイトが登場。彼女は母の愛に飢えながら行動している。その不幸な行動は他人を寄せ付けない力=斥力だ。
なのはとフェイトの対話及び戦闘は、巨大な引力と斥力の強い流れを生み出す。
結局なのはの引力が勝ち、フェイトは斥力を弱める。なのはの引力は「家族愛を求める心」という点でフェイトにも通じている。その関連性をもってフェイトの斥力が引力に変換するという奇跡が成就する。そして、ふたつの引力が強い結びつきとなって物語は完結する。
この「巨大な力の流れ」と「奇跡的な力の変換」が人に感動を与える事になるわけだ。
「力の流れ」は感動という感情の燃料的なモノとなり、「力の変換」は、その感情を爆発させる発火装置=つまり「感動のキモ」と考えると良いかもしれない。

A’sになると若干関係性が複雑になる。
なのはとフェイトは互いに引き合う引力を持つことで、このペア自体が巨大な引力を持つ。つまり、互いに人の為になれるよう切磋琢磨している。
そこに現れたのは、自分の主の命を助ける為にどんな行動も厭わない守護騎士ヴォルケンリッター達。なのはとフェイトの引力を併せても敵わないほどの巨大な斥力をもつ。ここに前作以上の「力の流れ」が生じる。
しかし、この両者の間には直接的な関連性は存在しない。つまりなのは達では「力の変換」をするような「奇跡」は起こせない。
この奇跡を起こすのは、騎士達の主人はやて。彼女は騎士達及び、闇の書の意志の行動を知るやいなや、即座に彼女達の真の意味での管理者になり、巨大な闇の書の斥力の、その意志の部分を引力に変換する。これは、長年はやてが闇の書の苗床として自分の命を提供してきたからこそ出来た奇跡である。
そこで「闇の書の力」だけが斥力のまま残り、それを、なのは、フェイト、はやて達が倒す。このシーンは「力の流れ」に属するだろう。つまり、感動のキモはあくまではやてと闇の書の意志の心交流であり、この作品におけるなのはとフェイトは、ある意味、感動の当て馬的存在だったといえる。
とは言え、なのはとフェイトは互いの存在さえ感じていれば充分幸せなのだろうがw。

さて、問題のStrikerSであるが、この作品を分析してみると、尺が長い上に感動の種となる物が多く点在している。端的に言えば、バラバラだ。この状況を把握する為に、各キャラクター毎に感動の力学を確認する必要がある。・・・あるのだが、膨大な文章量になってしまうので、各キャラ最小限のことだけ書いてみる。
・スバル・・・ティアの斥力を受ける引力キャラ。なのはへの憧れは六課入隊同時に成就。そこで終了のキャラ。テコ入れの機人設定は単なる蛇足。姉との戦闘も盛り上がりに欠ける。
・ティアナ・・・兄の無念を晴らすため斥力を纏う。なのはの謎の「説得」で改心。「能力不足を精神力でカバー」という感動力学をシリーズ全体を通じて持つ。地味だけど彼女が主人公?
・キャロ・・・不幸な生い立ちはフェイトに救われた過去の時点で解消。過去話でのみ輝いた。変換して得た引力をルーに向けるが関連性が無い為、心は通じず。
・エリオ・・・不幸な生い立ちはフェ(略)。過去話もおざなりw。キャロのボディーガード程度の立ち位置で終了。フェイトのお姫様抱っこが一番の見せ場か。
・なのは・・・全体的に教導のお仕事をしていただけ。ヴィヴィオとの母娘関係のみ突出しているが、その後の拉致、救助もお仕事の範囲内。白い悪魔としてのみ期待される事に。
・フェイト・・・お仕事と、なのはとのラブラブをしていただけ。スカの虚言に一瞬迷わされるが、それはすでに克服済みのはずで、その後の展開に意外性は無い。
・はやて・・・六課設立の動機が語られる前半までは結構な見せ場あり。なのはシリーズを通じた深い感動力場を醸し出す。しかし、その後の作戦行動のミス連続で全てがおじゃん。
ヴィータ・・・なぜだか、なのはの守護者的立場に生き甲斐を見出す。その信念を胸に最後の見せ場を掻っ攫う。しかし、当のなのははフェイト、ヴィヴィオとの新婚生活に夢中で涙目。
・シグナム・・・騎士としてかっこよかったが、まあ、それだけ。安定しすぎのキャラ。
ヴィヴィオ・・・なのはを母親キャラにする刺客。親子関係描写はこの物語のかなりの割合を救った。しかし、心変わりがあるわけでもなく、ドラマは無し。
・ギンガ・・・立ち位置が良く分からない、ライダーマンキャラ。妹のスバルと戦う見せ場があるが、心変わりがあるわけでもな(略)。
・ルー・・・かなり深い「斥力」をもって登場し、この作品のメインとなるかと思いきや、バックグラウンドもあまり明らかにならないまま終了。ヒステリーを起こし、知らない内に改心していた。
ゼスト・・・ゲイツとの関係の謎で、後半のストーリーを引っ張った人物。特段なにかが解決するわけでもなく、騎士として絶命。
・アギト・・・感動力学的に言ったら、一番のダークホース。不幸な生い立ちとヴォルケンリッターとの連戦、仲間の無念の死、そして、長い時を経て、同じベルカの融合主と出会うという奇跡により安住の地を見出す。
・スカリエッティ・・・結局何がしたかったのか、まったく支離滅裂。主人公達が持つ引力に相対する斥力を持つわけでもない。単純な敵として設定されたかわいそうなキャラ。
・ナンバーズ・・・その動機という面ではスカ以上に希薄な、かわいそうなキャラたち。特に、視聴者の憎悪を一心に受ける役を引き受けていた4番は可哀想でならない。
・・・
なのはとフェイト、ヴィヴィオの家族関係、はやての六課設立の動機など、日常面において叙情的な感動力場を配置する事は少しだけ出来ていたが、この物語のメインである、戦闘や、敵との関わり等において、しっかりした感動力場がほとんど成立していない事が分かる。評価したいのは、ヴィータの献身と、アギトの救いくらいだろうか。
主人公側のキャラ達は、そのほとんどが六課設立時点で動機が終了=力場が安定してしまっており、それを揺さぶるドラマも、まるで無かった。普通これだけ安定していると、仲間の裏切りとかが生じるものなのだが…。
敵側も、強い斥力を持つわけでもない、単に倒すべき敵として設定され、主人公側との心のつながりも希薄なのだから、力場の発生しようが無い。
キャラクター数が多くて各キャラを掘り下げきれず、キャラ毎の関連性も希薄、どうやら途中で方向転換を図った形跡すらあるとなると、とっちらかった印象は拭えないだろう。
StrikerSは、なぜこれほどまでに感動の力学方程式が崩れてしまっているのだろうか。
それを分析するには、さらなる考察が必要だろう。