尾形琳は悪なのか 〜ライドバック第4話感想〜

今、アニメライドバックが面白い。なにより映像が綺麗で、ロボットとバイクの中間のようなライドバックに乗る爽快感を感じるだけでも、見る価値がある作品だ。
さらに面白いのが世界設定。近未来、大震災の影響で日本は一時、国としての機能を失っていたらしい。そして、それを今の状態に復興したのがGGP=世界統治構想だという。この組織は日本に駐留軍を置いている。この、今の日本と同じ様でいて、実は違う世界というところが、なんとも興味を惹かれる。
そして、その面白さが正に前面に現れたのが、今回、第4話「しょう子、危機一髪」。
この話では、反GGP組織によるテロが起こり、琳の親友しょう子がそのテロ現場に巻き込まれてしまう。それを知った琳は、一人でライドを駆り、GGPのテロリスト包囲を破って、大混乱の中テロリストに間違われながらも、からくもしょう子を助け出すことに成功する。
ここで、なにが面白いのかというと、ネットの感想。
ネット上では、琳の行動を快く思わない書き込みが多いようだ。まあ、そうだろうとは思う。彼女のした事は、あまりにも無鉄砲で、しょう子以外の人質の事や、GGP軍及び行動を共にしていた警察の事を全く考えていない様に思えるからだ。彼女の行動が悪いという先入観で見れば、いくらでも悪く見えてしまう。まるで、ライドバックの魅力に取り付かれた狂人の様な印象を持っている人もいる様だ。
しかし、本当に彼女は悪いのか。それを判断する時に、この世界の設定「今の日本と少し違う日本である」という事を考慮してみると、別の見方ができるのでは無いだろうか。人間は、今自分が存在している世界の常識を、思考の基点にしてしまう。そこに盲点が有る。
ライドバックの世界の日本は、GGP軍に駐留されている国だ。この軍隊とはどんな存在か。それは、テロリストの人質となった日本人の命など、全く意に介さない軍隊のようだ。それは、司令官の言葉でもしっかりと表現されている。そんな組織を実際の生活の中、肌で感じている琳は、GGP軍のテロリスト包囲をどう感じるだろうか。当然、GGPは彼女にとって信頼に値しないのだ。
そして、事実、琳が目撃したのは、しょう子の安全が確保されていない状態での、軍のテロ現場への突入。この状況からして、この軍隊がこの時取っていた行動は、あくまでテロの早期解決だけが目的で、その際の人質の被害者数はほとんど考慮していなかったのだろう。文民統制が基本の日本の自衛隊では絶対に出来ない事を、この軍隊は簡単にやってしまうのだ。
だから、琳にとってはテロリストはもちろん、GGP軍及び警察も「敵」として捉えるのは全く正しい。国民の事を守らない軍隊に協力する必要は全く無いからだ。そして、そんな他に頼るべき組織が無い時に、人はどのように行動すべきか。自分の力で、自分の守りたい物を守るのは当然だ。
この琳の突入によって、被害が増えたかもしれないという指摘もありそうだ。確かにその可能性はあるだろう。しかし、幾つかの状況を見ても、その責任は彼女を誰何もせずにテロリストとして攻撃した軍隊にあるように思える。
今の日本は、未だ平和な国だ。なにより軍隊が温厚。絶対に国民の為にならない行動をしない事になっている。そんな国にいると、どうしてもそんな組織を無意識の内に信じ、その正義を絶対の物と信じてしまう。そして、その組織に反した者に無意識の嫌悪感を感じてしまう。それが、ネット上で琳の行動を快く思わなかった人が多い原因と言えるだろう。
ライドバックという、少し現実とはずれた世界の物語において描かれたこの出来事で、見ている人たちの心が透けて見えてしまう。そんなところも、こういう作品の面白さの一つだ。