原作付きのアニメ化は「入り口から失敗している」と駄目になる

久しぶりに、無駄な長文を書いてしまった。まあ、当たり前の事を言っているわけだが、先日の「俺妹×禁書 コラボトークセッション 〜大覇権祭〜」に参加して、こんな事を強く思った次第。
俺妹と禁書、どちらの原作も好きだが、アニメに関しては禁書の評価がどうしても低い。片方は日常がメインで、片方はスペクタクルも混じる大作で、作りやすさから考えれば、確かに俺妹の方が作りやすいのかもしれないから、作り手の能力の有無とか言うつもりは無いが。
俺妹が上手く言っている理由は「超えるべき壁が大きくてもそれを一つ超えればよかった」こと。つまり、作品のキモが「中学生の妹の趣味がエロゲー」という社会的にやばそうな設定が、同時に作品としての強い惹きであり、そこさえ押さえれば結構安定した人間ドラマとして普通に楽しめる作品だったといえる。そのキモは、脚本の倉田を含め作り手全員で認識していたらしく、それが上手くいった大きな要素だろう。(だが逆に、この「安定したドラマ」は、その安定故に購買意欲を削ぐかもしれない。だからこそゆまの奮迅に価値があるだろう)
では、禁書はどうか。原作者自ら指摘するように、禁書は学園モノあり、スペクタクルあり、ラブコメあり、サスペンスあり、ラッキースケベあり、血みどろありと、作品の幅が非常に広い。これらを料理するのは確かに難しそうだ。
で、イベントでは「監督がエピソード毎にテーマを決めてやっている」とか「手書きに拘っている」とかの現場の要素が提示されていたのだけれども、それらの言葉を聞く限り「やっぱりなあ」と思ってしまう。
禁書は確かに幅広い要素を持っているが、それらがバラバラであればここまで人気は出ていないだろう。バラエティーに富んだ要素があるほど、それをまとめ禁書を禁書たらしめる、何か強い要素があるに違いない。そして、それを掴めばアニメ化も決して悪いことにはならないはずだ。原作者かまちーはそれを当然知っているはずなのに、あえて制作側に聞いたという事は、もしかしたら何か含むところがあるのでは無いかとか思ってしまう。
制作側の答え「エピソード毎のテーマを軸に」というものは、この作品には物足りないものといえる。これはつまり、エピソード=ドラマをメインに作品を作っているという事を言っているようなものだからだ。
しかし、それでは禁書のアニメ化は駄目だと思う。
禁書の魅力のキモは、実はドラマにはない。いや、禁書のドラマ性は実に的確で、作品に魅力を与えている要素であるのは確かだ。しかし、それが禁書という作品にファンを惹きつけている要素かと言うと、少し違う。上条の説教にしろ、敵役の悲劇性にしろ、実際にはとてもありきたりで、それらを一つ一つ取り上げれば、(あえて言えば)取るに足らないドラマでしかない。
私は禁書のキモはこれらのドラマを取り巻く「世界観」にあると思っている。もっと言えば、世界観さえしっかり描けていれば、ドラマの方はある程度放っておいてもよいとすら思う。
禁書のアニメを見て何時も思うのだが、ドラマの粗筋を追うことに腐心し、またはドラマを盛り上げる事に腐心している様子が手に取るように分る。しかし、そのドラマは、実は禁書独特の徹底して細かい魔術や超能力科学の設定によって組み立てられている。なので、その設定が少しでも端折られていると、何でドラマが盛り上がっているのかさっぱり分らない。理由も判らず、ただ熱い拳のぶつかり合いだけが提示されている様子は、逆に滑稽にすら見えてしまうものだ。
単純に言えば、禁書アニメは情報量が徹底的に足りない。それらを盛り込む努力は、粗筋を負う時にのみしかみられないので、全然物足りないのだ。
違う作品の例で考えてみると、禁書と反比例しているのが「化物語」かもしれない。あれは情報量が極端に多いが、別にそれら全てがドラマに関係しているわけではない。ドラマを構成するに必要な情報は、整理すればそれ程多くないのに、スタイリッシュな映像を作る目的だけで、情報を盛り込んでいたりする。つまり、禁書もやろうと思えば、禁書独特の世界観を、それを構築している膨大な情報量をアニメというスタイルに持ち込む事が可能なはず。しかし、旧態依然とした、ドラマに主眼を置いたアニメ作りをしているので、それがなされないのだ。
ついでにもう一点。「手書きに拘る」という事。これも落胆せざるを得ない。禁書の見所の一つはスペクタクルだ。何百人のシスターと戦う場面とか、何千人の人混みの中のサスペンスとか、100艘もの船による海戦とか。これらを描くのに手書きに拘るというのは、どういう発想だろう。ハリウッド的スペクタクルを描くのにCGの活用は必須。それを上手く使えるかどうかで、最新のアニメかそうでないかが判断されても良いくらいだ。
最近の良い例だと、「神のみ」の栞編だろうか。圧倒的な図書館の本の物量を描くのにCGを効果的に使っていて、その映像だけでなんだか納得されられてしまった。また、多人数との戦闘という点では、学園黙示録なども上手い見せ方をしていたと思う。
とにかく、禁書の原作本売り上げ数は半端無い。そんな作品を映像化する以上、また、その作品がアニメ化に向いているのならばまだしも色々難しい面があるのであれば、それ相応の覚悟と技術を持ってあたるべきだ。
今期の状況ではそれらはやはり期待どおりにならなかったが、禁書というコンテンツはまだ先がありそうだ。(おそらく、なんだかんだで俺妹よりも売れるかもしれない。原作人気で。)今後があれば、是非改善して欲しいものだ。
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世界観で見せる・・・というのは、私のお気に入り「ネギま」においても同じ事がいえる。そして、アニメが黒歴史という点では禁書よりもひどいorz。
ネギまも全然終ってなく、来年には映画化も決まっているが、その辺りの認識は作り手に理解されているのだろうか。OADでスキルを高めているけれども、未だに心配だ。