輪るピングドラム感想 〜救われない世界の、運命のリサイクル〜

さてさて、このピングドラムだけれども、実に素晴らしい作品であった。時代の空気にあった、軽妙洒脱な魅力に満ちた世界で形作られていた。
作品の構成としては、やはり幾原監督作品という事だけあって、実は「少女革命ウテナ」に結構似ている。
この世界の裏側で善を象徴する女と悪を象徴する男が対立していて、その戦いに主人公が巻き込まれる話。最初は女の側に強制的に付くことが求められて、超常の力も与えられ、自分の為に戦っているつもりだったのが、実は後から出てきた悪の男との対立になっていくところとか。
けれども、二つの作品の方向性が、実は全く違うのがかなり面白い。
ウテナは「世界を革命するために」とかいっているけれども、実際にウテナが革命しようとしていたのは、自分自身だった。世界が相手だと思わせるような魅惑に満ちた描写なのに、実際にウテナの求めていたのは、彼女自身の心の開放。戦っていた悪の象徴である男も、ある意味どうでも良い存在。で、実際に心を開放したら、素っ裸になって、なんだかよくわからなくなっちゃったりして。・・・レズ?
しかし、ピングドラムは違う。この物語は、当初はごくごく庶民的な、家族とか人間関係とかの小さな物語から始まっている。ただ、妹の命を超常の力で助けたいが為、ごく庶民的な兄弟の絶望的な戦いを、空しい他人との騙し合いで行う。
しかし、実際には、その兄弟は大いなる原罪がある事が判ってくる。両親から否応無く引き継いでしまっている、本物の世界に対する罪。それによって、物語は世界に対面していく事になる。
物語の中の善の女と悪の男は、確かに対立している。しかし、それは実際には、大した問題ではない。
なぜなら、悪の男が、悪とならねばならなかった理由の根源は、世界そのものにあったから。悪の男は、この「救われない世界」からどうにか救われる手段を見付け出すために、悪を行う。因みに、善の女は、運命を受け入れ、自分の心のままに生きるための力を与える存在であり、実質ウテナの善の女と同等だが、ある意味なに事も出来ない存在と言える。
この世界は「救われない」。だから、どのような手段を使ってでも、この世界の運命を変えてみせる。そうやって、志しある者達が立ち上がり、絶望的な手段で、更なる絶望を振り撒いて、散っていく。ただ、それだけが描かれる。例えそれを行った者が親であっても、いや、親だからこそその呪いは受け継がれ、罪から逃れる術は無く、最後には消え去る運命のみ。
運命の循環するピングドラムは、希望の様でいて、実際には救いの道を何も示してはいない。それは、逃げ道の無い運命のリサイクルだ。互いに愛によって救われても、その愛は少しずつ周りを磨り減らしていき、その愛の行為こそが、その循環の効率を自ずと悪くしていってしまう。
救いは、記憶を残している運命に翻弄された夫婦の語らいにのみあったが、それはあまりにもか細いものに思えた。
この物語は、断じて希望の物語では無いだろう。警鐘の物語、ですらない。いわば、世界へのレクイエム的な物語なのだろう。

輪るピングドラム 4(期間限定版) [Blu-ray]

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ウテナの中の人にこの作品を見せたかったなあ。どう感じたのだろう。
少女革命ウテナ コンプリートCD-BOX

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