村上春樹的世界のアクエリオンEVOL 〜河森監督の目指す神話的世界とは〜

先日「ブラック☆ロックシューター」の事を書いた時に、「内面世界物語こそ究極の物語」と言ったけれども、実際にはもっと上位の物語があるだろう。
それは「神話」。
内面世界物語は個人の内面世界を描くが、それは他者(受け手)と共感する部分に物語としての意義がある。人のメンタリティは実はそれほど大きな差異が無く、ほとんどの場合非常に大きな共感が得られるものなので、「個人が作り得る」究極の物語と成り得るのだが。
ただ、その物語の意義として重要な共感部分を、長い時間をかけて抽出し、体系だった意味を与えたものこそが、「神話」だ。実際には史実を基にしているものが大半だが、それでも長い時間をかけて集団心理レベル、無意識下レベルで取捨選択され、さらに精神レベルの意味が蓄積されたことによって、「精神の体系」ともいえるものになっている。古代思想は、自然界への精神的な繋がりが深いので、人による自然の捉え方そのものの表現ともなっている。
現代世界に幅を利かせている「宗教」などは「人が生きるための道具」的な思想でしかないが、古代の神話に繋がる宗教は、人の「精神の世界との繋がりそのもの」であった。神話こそ、人の精神世界を最も根源的に表現したものであり、抗いがたい力を持つ物語と言えるだろう。
河森監督が目指す作品は、「神話的エンタテインメントの追求」なのだという。これは非常に大それた目標であり、しかし、物語作家の目標として、実に望ましい方向性とも言えるだろう。
そして、実際に作られている「アクエリオンEVOL」なのだが、非常にエンターティメント性が高い上に、どこと無く「神話的」と思わせるつくりになっているのが、さすがと言える。
ただ、この「神話的」と思わせる部分が、結構面白い。というのも、この物語で神話的と思わせる部分は、作品内に存在する「神話的パーツ」からではないから。
具体的に言うと、アクエリオンEVOLには「天使」とか「転生」とかが出てくるので、その構造こそが神話的といえるのだけれども、それらのパーツは、今のところそれほど重要な要素となっていない。(もちろん、これが後に作品の神話的要素を形作る骨格になるとは思うのだが)
それなのに、既にどことなく神話的雰囲気がある。それは何か。
それは、描かれている世界の構造そのものにある。山のふもとの海辺にある街、なせかそこに外敵が襲ってくるのに国家的な存在が現れず、しかしそれを山の頂にある学校が特殊な機関として追い払っている。世界的な問題が、この街だけで完結するはずが無いのに、なぜかこの街だけで完結している。一見普通の街であるように思えるのに、実はとても閉鎖的で奇妙な街が、物語世界として描かれているといえる。
これは、実は「人の精神世界そのもの」を描いた世界と言えるだろう。こういう世界を描く手法は、実は良くあって、つまりは「村上春樹」的世界といえる。アニメで言うと、「灰羽連盟」的世界というべきか。(個人的には「アニプリ」的と言いたいが)
少なくとも、今現在「アクエリオンEVOL」が目指している神話的要素は、「村上春樹」的現代神話と言えるだろう。
村上春樹の描く世界は現代神話だとよく言われるようだ。それはもっともなことだろう。先にも書いたように、神話とは本来「精神の世界との繋がりそのもの」を表したものであり、現代人の世界との繋がりを具象化すると、まさにこのような「奇妙な街」になるに違いない。
ただ、これは神話的物語の「入り口」として用意した舞台設定でしかないだろう。今後、この世界をより「神話的」に成熟させるには、もう一ひねりあっても良さそうな気がする。それにより、より深い神話的物語を醸成してくれそうな気がする。
アクエリオンEVOL」の、今後の更なる「神話的深化」に期待したいものだ。

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