「総合技能」としてのアイドル声優 

所謂「アイドル」というものは、基本的に「若さ」を売るものだろう。恋と青春を夢想させる事こそ使命と言え、それは若さの中にイメージがある。アイドルという存在が、何がしかの芸の実力よりも若さが重要、と思われる理由だ。
しかし、ことアイドル声優において、この常識が通用しないことは良く知られている。人気の出る声優は、決して若さだけの存在ではない。アイドル声優として存在するには「若さこそが邪魔」とまで思われることがある。
それはなぜなのか。様々な理由があるが、基本的に、アイドルとして本来求められる「若さ」は、声優の場合演じているキャラが請け負っている、という事が挙げられるだろう。まずは、声優としてそのキャラを活かせるかということが求められる。その場合「声優自身の」若さが勝ってキャラをイメージする事が阻害されると、逆にファンからは「キャラの敵」とすら認識されかねない。
昔からの声優界の伝統として、年齢を非公開にするという事があるが、これはある意味正しい。声優は全く姿形の違う存在に声だけをあてて、そのキャラを形作る。その時、年齢など「声優自身の生活感」を感じさせるものなどは邪魔なだけだ。
とは言え、アイドル声優とは、声優自身を売り出すものだ。声優自身のパーソナルにこそ、魅力が無くてはならない。・・・正に、この矛盾をクリアーした存在こそが「アイドル声優」と言えるだろう。
つまり、アイドル声優としての自身の魅力は、まず自身がキャラを演じる声優である事を前面に出した上でのものでなくてはならない。それは、声優自身の若さからくるストレートな魅力では無く、いかにキャラを愛しているか、理解しているかという態度の中から現れてくる、という訳だ。その、まるでフィルターをかけるかのような魅力の表現方法を獲得する為には、それ相応の鍛錬が必要だろう。それを表現するトークの為に、「心を入れ替える」くらいのことが求められるかもしれない。それを成し得るには、相応の歳月が必要な場合もあるだろう。
アイドル声優は、演技を求められ、歌も求められ、容姿も求められ、なおかつ、キャラの演者としてのトーク技術、つまりファンから望まれる人格すら求められる。デフォルトでこれほど広範なものが求められるタレントというものは、そうは無いだろう。
アイドル声優とは、正に総合技能が求められる職業と言える。