今、アニメに求められる「デジタル感」

00年代が終わった2010年の初め、アニメファンのネット界隈では「00年代のアニメ ベスト10」みたいなものを語るのが流行っていたものだ。実際には、自分の好きな作品を推す事だけが目的みたいなものが多かったけれども、それなりに考えられたリストなどもあっただろう。
私自身も結構色々考えてみたものなのだけれども、結論としては「あと数年経って、その影響を量ってみないと分らない」として、語ることをしなかったw。まあ、所謂モラトリアムなものなのでw。
しかし、やはり今になったからこそ、はっきりしてきた事とかもある。実際には、このような事は今こそ語るべきではないか、と思っていたりする。
で、その当時から候補に入れていた作品が、やはり今でも気になっている。その作品は「劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」。2000年の作として、正に00年代の幕開け的な作品だ。この作品の監督は細田守、今、宮崎駿を除けば、おそらく押井守を抜いて最も注目すべきアニメ映画監督だろう。
まあ、それだけでもこれは「代表すべき作品」と言えるのかもしれないが、今回注目したいのはそこでは無い。注目点は、この作品に見られる「デジタルのデザイン性」だ。
アニメにおいて「デジタル」とは何か。
アニメにおいて、始めてCGが使われたのは、確か「劇場版ゴルゴ13」だとか。ただ、あまりにチープな見せ方(明らかに異質なポリゴンのヘリコプターが飛んだり)だったので「まだアニメにCGは使えない」みたいな認識を強めたとか。
ただ、それ以降、その「まだ使えない」という認識の裏に、「CGを自然に見せなくては使った意味が無い」という認識も、強く植え込まれていた様に思う。つまり、アニメ制作にとって、CGは「描写を助ける道具」という認識が強く、CGである事が分ってしまう事を極端に嫌う傾向が長く続いていたように思う。CGである事が分れば、それは「チープに見えてしまう」という脅迫反念が染み付いていた。だから、あのデザインでも定評のある「エヴァンゲリオン」でも、CGによる描写は細心の注意を払って、現実感を表現していた様に思う。
しかし、「ぼくらのウォーゲーム!」において、CGの使われ方は大きく異なる。卓越した演出家である細田守は、「デジタルのデザイン性」に注目して、それをよりクローズアップし、魅力的に見せる方法をとっている。既に世の中にもデジタルが溢れ、「デジタルを表現する方が現実的」という逆転の発想に至っていたともいえるだろう。
デザインがデジタルである事を強めれば、確かにそれは「自然感」が損なわれるだろう。しかし、実際の現実世界そのものが「自然感」を喪失気味の現代日本において、それをデザインで表現することは、マイナスでは無い。デザインの本質はシンプルな規則性であり、正にデジタルにこそその力が備わっているのだから、「デジタルのデザイン性」は使えば使うほど、見るものに共感を与えると共に、その表現の力を強める事になる。
今、「デジタルのデザイン性」=「デジタル感」は、現在社会の最先端を行く若者が受け取るアニメカルチャーにおいては、まあ、無くてはならない物と言えるだろう。その事を、大作作品として初めて表したのが「ぼくらのウォーゲーム!」だったように思う。(実際には、実験作品的な小品はそれ以前から沢山あったろうけれどもね)
しかし、結構この「デジタル感」の力の大きさが、あまり理解させていないようにも思う。例えば、00年代後半から急遽台頭してきたシャフトの作品群。あれが何故あれほど強く求められるのか、その理由に「デジタル感」が語られた事はあまり無い様に思う。やはり、「デジタル感」はアニメ描写においてマイナスのイメージなので、別の言葉に置き換えられていたりする。
しかし、例えばテクスチャによって描写の密度を濃くしている作品などは、少しデジデジして異質でも、やはりデザイン性が増すとともに、どこか現実から切り離される事によって「作品としての格が上がる」傾向が有る。「怪〜ayakashi〜」などはそんな評価だったし、最近の「ペルソナ4」とかにもそういった傾向がある。
逆に、デジタル世界を描いている「アクセル・ワールド」について、この「デジタル感」が全然表現されていなく、残念に思っていたりする。例えば「アクアカレント」(水のアバター)を描く際に、水のテクスチャを張るのは当然の事として、「その上から」手書きの水面とかを書き足して「自然に」見せようとしていたりする。明らかに「デジタル感」を恐れている、昔ながらの感性だ。
・・・どんどん各論になっていってしまったが、まあ、そういう事。
ぼくらのウォーゲーム!」で描かれていた現実世界は更に変化し、世の感性もどんどん進んでいる。日々の1/3をスマホかケータイに目を落とし、もしくはモバイルゲームをやりこみ、家でもPCでギャルゲーをやりまくっているオタクにとって、「デジタル感」はデザインの基本になっていると言ってよい。「それが無い事が異質」とも感じるだろう。
アニメの描写において、手書き感が上質で現実感を得る手段とする時代は過ぎ、今はデジタル感こそが現実を描写する手段として上質に感じる時代になっている。
もし未だ気付いていない製作者が居たとすれば、今世間で評価されているアニメ映像の傾向を見て、この事に思い至って欲しいものだ。

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