アニメブームの歴史を語る

先日、「アニメブームが終っている、という感覚」という、かなり大上段に構えた記事を書いてしまったのだが、ついでなのでその背景的な事も語っておきたい。毒を食らわば皿まで的なw。
とは言え、実はこの「アニメブームの歴史」については、wikiに結構しっかりと纏められている。
アニメブーム(ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1#.E3.82.A2.E3.83.8B.E3.83.A1.E3.83.96.E3.83.BC.E3.83.A0
さすが日本のwikiだw。
なので、ここではあくまで個人的な感想を語りたい。

  • 第一次アニメブーム アトム

まず最初に「第一次アニメブーム」とされているのが、テレビアニメ黎明期の1963年〜。これはテレビアニメ「鉄腕アトム」が放映され、アニメというものが広く世間に認知されたという出来事に終始するだろう。何か新しいものが広まる時、そこにはブームが有るということ。
この第一次アニメブームがどのような経緯を辿ったのかというと、黎明期として結構実験的な作品などもあったけれども、結局の所「アニメは子供向け」というところに落ち着いて、収束していったのではないかと思われる。アニメ=子供向けであり、子供向け=玩具販売の促進というスタイルが出来た。所謂、世間が最も広く感じているであろうアニメのイメージが、ここで出来たというわけだ。

  • 第二次アニメブーム ヤマト

そして、「第二次アニメブーム」は、1970年後半からというのが通説らしい。これは何に端を発しているかと言うと、「宇宙戦艦ヤマト」のヒットによるもの。この「宇宙戦艦ヤマト」は、当時画期的ともいえるほどSF要素がしっかりしていて、その「本来子供向けであるはずの」アニメを、大の大人が大絶賛したところが、ブームの発火点と言える。その大人のマニアの評価に乗っかる形で、子供を含めたブームが生まれた。
因みに、世間でよく言う「オタク」的な存在は、どうもこの時期から活発に活動し始めたらしい。オタキング岡田斗司夫などは、この世代。なので、彼らはSFに対して強い思い入れがあるし、アニメオタクとSFオタクが本来別ち難い関係にあるのも、ここに根源があるのだろう。

また、このヤマトから生まれた第二次ブームは、それだけに留まらなかった。ヤマトがすぐに子供向けにシフトして濫作される中、より大人の視聴者を意識したアニメが生まれたからだ。それが1979年に放映された「機動戦士ガンダム」だ。
巨大ロボットものという点を除いて、子供向けであるという意識をほほ排除したこの作品は、大人のマニアを、より深くアニメ世界に引き込むことに成功した。それは、現在に至るまで未だに新作が作られ、その世界観が広がり続けていることからも分るだろう。
第二次アニメブームは、ヤマトからガンダムへと引き継がれる事により、より大きな流れとなっていく。それは、「本来子供向け」と思われていたアニメであっても、大人も納得できる作品であれば、大人のマニアが熱狂的に支持するという状況を生み出していった。
これ以降、アニメは「本来子供向け」だとしても、一部「マニア向けアニメ」を愉しむ大人のマニアも居る、という状況になっていく。

ただ、世間ではあまり取沙汰されないが、このガンダムと第二次アニメブームの同時期の、もう一つの作品を挙げておかないと、アニメオタクブームの大きな波を説明しきれないと思っている。その作品とは1981年から放映された「うる星やつら」。
ガンダムがアニメブームの表の文化だとすれば、うる星は裏の文化を受け持ったと言えるかもしれない。簡単に言ってしまえば、その役割は「エロス」。アニメ上の異性を興味の対象としてみる、所謂「萌え」の起源は、この作品あたりから生まれている。ガンダムファンが「マニア」の範疇に納まっていたのに対して、より特異な存在を称する蔑称「おたく」が必要になったのも、このうる星があってこそだろう。後に、「オタクとはマニアの上位存在」との認識が定着し、蔑称ではなくなったが、オタク文化、萌え文化の起源を説明するとき、「うる星やつら」という作品は、無くてはならない存在だろう。
しかし、このようによりマニア化、特異化の進んだ文化が世間で受け入れられ続けるのは難しいものだ。作品自体もより先鋭化していき、逆に受け手の気持ちから乖離してしまい、ブームは収束に向かう事になる。

第二次アニメブームが去って以降、暗黒時代ともいえる時期を打ち破って突然登場してきたのが、「新世紀エヴァンゲリオン」だ。その放映1995年以降を第三次ブームとするのに、異論を唱える者は少ないだろう。
第一次ブームが「アニメの誕生」、第二次ブームが「大人・マニア向けの誕生」を生じさせたのだとすれば、エヴァの第三次ブームが何をもたらしたのかというと、それは「クオリティの確保」だろう。
より幅広い層からエンタメとして認められると思われるクオリティを確保したこの作品の存在は、オタク達を強気にさせた。アニメ文化は、自分達の中だけで愉しむものではなく、世間一般的に認められるべきエンタメだという認識を強めていくことになる。
この当時、アニメよりもより幅広く受け入れられ始めていたゲームブームもそれを後押ししていたし、Windows95の大ヒットなど、ネット通信などの口コミも整備され始めた時期でもある。さらに言うならば、「萌え」という言葉も生まれたのもこの時期。ゲームブームの裏には、それを後押しした18禁美少女ゲームの勢いもあっただろう。エヴァそのものも、ガンダムなどとは違い「萌え」を最初から意識したつくり、つまりオタク文化のエンタメとして確立したものだった。
岡田斗司夫により「オタク」が尊称にすり替えられたのもこの時期だ。
つまり、これ以降は「アニメブーム」という言葉より、「オタクブーム」といった方が正しいと言えるかもしれない。

  • 第三次アニメブーム アキバブーム

エヴァはマニアックな作品だ。なので、本来であればそこから始まったブームも、そのマニア度が先鋭化し、次第に世間から受け入れられなくなるという第二次ブームのような展開も、可能性としてあったかもしれない。しかし、そうはならなかった。
ネットの進歩により口コミの勢いは凄かったし、なにより作品のクオリティの高さは幅広い層に受け入れられる水準に達していた。アニメ・ゲームといったオタクブームそのものが世間の大きな話題になり、受け入れられ始めた。それを象徴するのが、2004年に発表された「電車男」などのヒットによる「アキバブーム」だろう。
オタク文化のパイは世間全体へと広まり、日本の基幹産業の一つとまで言われる状況になっていく。こうなれば、第三次ブームも充分継続しているといえるだろう。エヴァから既に10年と、ブームもかなりの年月が経っているが、受け手そのものの広がりが、波の伝播する期間も長くしているといえる。
ここに至り、「アニメは子供向け」という認識もかなり薄れ、若者の大半がごく普通にマニアックなアニメを愉しむという状況になっていると思う。

アニメオタク文化は世間に広まり、ごく当たり前のエンタメとして定着しつつある。
しかし、昨今の不況はかなり深刻であり、消費にも影響が出ざるを得ない。そこに東日本大震災が発生したり、政治がまともに機能しないなど、生活に深刻な状況が続いたりすると、誰もがエンタメに対する認識も見直さざるを得ないだろう。
ステマ事件は、もちろんそれを疑うべきかなり明確な証拠(ミス)があったのは事実だろう。しかし、それでも、その事件を「求めていた」受け手が居たからこそ、あれほど問題視されたのでは無いかと思えてならない。
今後、アニメ、オタク文化の受け手の状況は、消費税増税が見込まれるなど、決して明るいものでは無いだろう。その中で、今までと同じ様なブームを作り続けるのが難しい、見切りを付けたいと思っている者がいるのではないか、その数も決して少なくないのでは無いかと思える。
オタク文化を支えているのは、結局サイレンとマジョリティとしてのオタク達だ。その者達の数が、既にかなり減っているかも知れない。そういったサインが、最近のソフトの売り上げ傾向などに、既に潜んでいるような気がする。