照明落下事件と、夢と消えた虹色の景色 〜戸松遥セカンドツアー最終東京公演について思うこと〜

  • 照明落下事件について

大きな事件になってしまった。
戸松遥のセカンドツアー最終日、東京国際フォーラムでの公演の最中に、二階席に設置されていた照明が落下し、下にいた観客が怪我をしたという。
私は、その場所からおそらく10mほど前の席に居たのだけれども、その事件には終演まで全く気付かなかった。家に帰ってネットで見て、初めて知った。
落下した照明は重さが10kgを超え、頭に直撃していたら命に係わるものだったらしい。周りにいた観客は、当然その光景を目にして恐怖し、そのまま継続されたライブの中、途中で帰った者も居たという。
そう、このような事件は、ライブ会場で起きるアクシデントの中でも、かなり大きなものだろう。それなのにライブは中断されず、そのまま継続していたのだ。
問題は二つある。一つはなぜ照明が落ちたのか。これは会場側の整備ミスだろう。これは、今後より万全な管理体制を敷いてもらうしかなく、それについては会場側も既に表明している。
ただ、もう一つの問題は、いま一つ責任が明確になっていない。つまり、なぜライブを継続したのか、ということ。
開催者側のソニーによると、その場で点検し、危険が無いことを確認したから継続した、としている。
しかし、これは欺瞞だろう。既に落ちてはいけない物が落ち、ライブ中の暗がりの中、短時間で誰が何をしたことによって、その確認が取れたというのか。そんな状況下では、確信できることなど何も無いと思える。
なにより、仮にこれらの確認が取れたとしても、それを最も知りたい、知らせるべき周辺観客に伝えていなければ、それはしていない事と同じだ。後から大丈夫だったといわれても、その時感じ続けた恐怖はなかったことには出来ない。
私は、これは明らかな失態だと思うのだが、その失態を、会社の保身のために明らかにしていないことが、何より大きな問題だと思う。
今後も、このようなアクシデントは往々にして起きるだろう。その時、どう対処するのか。その対応こそが開催者の責任だ。その責任について自覚しようとせず、ライブ主催者がそういった体制の問題を持ち続けることになるかもしれないと思うと、絶望的な気持ちになる。
事件を軽く考え、観客を軽く考え、ライブを軽く考え、つまりは、自らが抱える戸松遥自身に対しても軽く考えているとしか思えない。
全てを真摯に受け止め、その一瞬の判断ミスについても非を認める態度でなければ、その企業に人の心はついてこない。それは、戸松遥のイメージにも影響しかねない。
また、もしこの時の判断を本心から問題ないとしているのであれば、それは今後とも同じような判断をし続けるという事だろう。その態度が、いつか大惨事につながることにもなりかねない。
今、声優、アイドルの活動は華やかこの上ない。言わばかき入れ時だ。そんな中、よりきわどい演出、よりタイトなスケジュールで開催されるライブも多いだろう。もしかしたら、今回の事件も、そのような状況下だからこそ起きたものなのかもしれない。
今回の事件を、その失態を、しっかりと教訓として認識して、今後の活動に反映していってくれないと、その世界に身を置くファンとしては、不安に苛まれ続けることになる。
どうにか、もう一度自らの判断を見直して、態度を改めて欲しいものだ。

  • 虹色の光景

ところで、上記のような事をくだくだと書くのには、一つ理由がある。それは、「戸松遥の」ライブで起きた事を、とても重く受け止めているから。
私は戸松遥のファンではあるが、ただファンだからというのであれば、こんな事を書かなかったかもしれない。戸松遥という存在が、ファンであることと関係なく特別な存在だと認識しているからこそ、あえて書いたといってよい。
今、一番人気のあるアイドル声優は誰か。誰もが「水樹奈々」を思い浮かべるだろう。しかし、水樹奈々は声優であると同時に、凄い歌唱力とパフォーマンス力を持ち合わせた歌手であり、ある意味突然変異型のアイドル声優とも言える。
アイドル声優とは、まずはなによりその時代の人気キャラを数多く演じ、そのどれもがファンから特別視され、そして、そういうキャラ主体の中にあっても声優自身のキャラクターも愛され、だからこそその作品の主題歌なども歌う事が許させる存在。
こういう存在になるには、多くの主役を張れるよう企業のバックがあるからとか陰口を叩かれることも多いが、それでも、現にそういったキャラ主体の人気を持つ者こそ、本当の意味でのアイドル声優だと思う。
そして、そういった存在は、ここ10年、変わらず一人の人物だった。それは「堀江由衣」。堀江由衣は、2000年代前半にブレイクして以降、常にアイドル声優のトップに居たと言ってよいだろう。
しかし、アイドルにはどうしたって寿命がある。堀江由衣を超えるアイドル声優がいつかは登場しなければならない。言わば「堀江由衣の後継者問題」は、堀江由衣の活動が10年を超えるここ最近、業界の一つのテーマだったと思っている。
そして、戸松遥だ。
戸松遥は、決して、デビュー当時からトップアイドル声優になると目される存在だったわけではない。何より彼女は若く、キャラ主体でなおかつ本人も魅力を感じさせるなど、難しい立場としてのアイドル声優には成り得なかった。
しかし、彼女が着実に主役キャラを演じ続けるうち、少しずつファンが彼女を見る視線も変わってくる。演じるキャラが戸松遥を作っていったといっても良いだろう。そして、戸松遥自身もそういった視線を受け止めることが出来る年齢にもなりつつある。
今、戸松遥を見るアニメファン、声優ファンの視線は熱い。それはファンの数の点でもそうだし、ファンの熱意の点でも同様だ。
そして、そんなファンの熱意が、目に見えて証明されたと言えるのが、正にこの2013年2月10日の東京国際フォーラムライブだった。
ライブ中盤、歌われたのは「七色みちしるべ」。その時の「観客席の」光景は、圧巻だった。
主催者側が何かをしたのではない。しかし、会場全体が何色ものペンライトで、まるで虹の様に彩られたのだ。
ステージからの距離に応じて、プリズムで生じる色の配列のように、観客が色違いのペンライトを振っていた。それは、ファンが企画したものであり、観客のほとんどがそれに参加したからこそ実現した、夢のような光景だった。
私もかなり以前からペンライトを振る事が当たり前となっている声優ライブに参加し続けているし、このような企画にも何度も立ち会っているが、これほどまでに綺麗な光景は、今までで最高のものだと思える。(他にもっと凄いものがあったという人には、是非教えてほしいくらい。)
これは、想像以上に熱意のあるファンが、かなりの人数揃って企画しないと成り立たないものだ。そこには、莫大なエネルギーが存在する。
実際のところ、「戸松遥ファン」の総数は、例えば水樹奈々とか、堀江由衣とかと比較すると、まだ全然超えてはいないかもしれない。しかし、こういった個々のファンの熱意は、戸松遥の若さもあってか、より若い層で、より熱いものを感じさせる。そして、そういった「熱さ」は、いつか、より多くのファンを引き寄せる原動力となる。正に、今回の「虹色ペンライト」企画は、より多くのファンを作り得る、一大企画だったと思える。
それはつまり、この日のこの企画をもって、戸松遥という存在が、名実ともにアイドル声優のトップとして認められるかもしれない、大切な出来事だった。そして、それは10年に及ぶ「堀江由衣の後継者問題」に決着がつく、アイドル声優業界にとっても、歴史に残る日となったかもしれない。
何か一つの大きな成功例がある。その時、その業界は大いに沸き立つものだ。AKBがあったからこそ、アイドル業界の今の活況がある。
戸松遥が名実ともにトップアイドル声優だと認識されたとき、それは単に彼女の成功ではなく、業界の成功として業界全体の利益にも反映するかもしれない。もしかしたら、戸松遥はそれくらい大切な存在になりつつある。
今回のライブは特別だった。私は間違いなくそうだと思っている。
それなのに、その特別なライブ、その特別な企画が、照明落下とその対応方法によって泥にまみれてしまった。これは、神様の采配としてもあまりに出来すぎていて信じられないくらい悲しい出来事だ。
今回、照明落下というアクシデントが起きてしまったのはしょうがないとして、もし、そこで一時中断をしたとしたらどうだっただろう。
30分の中断をする。機材の点検をして、万全を期すために、直下の観客の席も移動させる。会場は突然の出来事で、それまでの熱気も冷めるだろう。もしかしたらそのまま中断されるかもしれないと、誰もが不安がるはずだ。
しかし、点検を終了し、観客の了解を取って再開を決めたとき、ファンはどう行動するか・・・
その冷めた熱気を取り戻すべく、より一層、熱い応援をしたに違いない。今の戸松遥ファンには、そのくらいの熱さは充分あるはずだ。
もしかしたら、熱気は戻らないかもしれない。一時中断によって終演時間が押したら、費用も嵩むかもしれない。
しかし、ファンを信用し、ただ誠実に興行を行えば、もしかしたら、今回の事件は事件ではなく、中断からファンの力で奇跡の復活を遂げた、より大きな「伝説のライブ」となったかもしれない。
先日、戸松遥自身のブログでもコメントが発表され、おそらくはこれで手打ちという流れになるのだろう。
しかし、これはおそらく企業側の意向も汲んだ最低限のコメントであり、このように彼女自身も身をひそめるような状態になってしまったのは、実に残念だ。今後、この「事件」は、彼女の古傷の様に痛み続ける事になるかもしれない。
この業界に係わるすべての人たちにおいては、今回のような事態にならないように、どうか、自らの活動の一瞬一瞬において、誠実に物事にあたっていって欲しいものだ。
それは、戸松遥、声優、アニメファンとしての、切なる願いだ。