アイドルアニメの系譜について、だらだらと 〜ていうか「アイカツ!」礼賛長文〜

アイカツ!」があまりに素晴らしいので、過去のアイドルアニメとの比較から語りたくなった。やはり、この「アイカツ!」に至るまでには、過去のアイドルアニメの積み重ねが有ればこそだから。

  • 1980年代 〜アイドル黄金時代の光と影〜

1980年代初頭、松田聖子を筆頭としたアイドル黄金時代があった。それは1985年のおニャン子クラブの登場によって、大衆化、バラエティー化に進んでいった。
その頃の代表的なアイドルアニメと言えば、やはり1983年「クリィミーマミ」だろう。魔法の力で大人になった少女が偶然スカウトされてアイドルになってしまい、アイドル稼業に振り回される。非常に斬新な作品であり、現在になってなお、古臭さを感じさせない魅力のあるアニメだ。実際のところ、その斬新は「時代を映している」とは言えないくらいかもしれない。
より時代が下った作では、1989年の「アイドル伝説えり子」がある。この頃は既に黄金時代の黄昏時だが、それでありながら、より時代がかった1970年代的な古臭いアイドルを描いている。
1980年代の2大アイドルアニメだが、ある意味対照的な作品と言える。しかし、この二つの作品には共通点がある。それは、アイドル業界を美化せず、ヒロインは心ならずもアイドルになっているということ。
1970年代くらいまで、アイドルにはマイナスのイメージが強かった。古い世代の意見が尊重される時代でもあり、世間的には芸能界=風俗業であり、時にアイドルは性の対象くらいにしか見られないこともあった。大スターとなった松田聖子を筆頭に、そのイメージは変わりつつあったが、それでもその名残は残っていたと思われる。
この80年代におけるアニメの中のアイドルと言えば、やはり、「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイを挙げなくてはならないだろう。彼女は、元々アイドル志望であり、夢を叶えて大スターとなった。しかし、その結末は決して幸せではなかった。芸能界の現実に振り回され、結局は、ただ一人生きていくことになる。
純粋な少女の心を持っていたクリィミーマミは、芸能界から完全に姿を消し、えり子は、何時か自分のイメージする完全なるアイドルになるため、アイドルに殉じるかのようなラストとなっている。
アイドル界に強い光が差したアイドル黄金時代。その中でアニメキャラが本当の意味でアイドルとして存在する為には、その裏に潜む影の部分も色濃く描く必要があったのかもしれない。

  • 1990年代 〜行き場を失ったアイドル達のバラエティー化〜

アイドルアニメの1990年代と言えば、1990年「アイドル天使ようこそようこ」から語り始めなければならないだろう。異色の脚本家、首藤剛志の趣味が前面に出た幻想的な作品であり、この時代のアイドルの特異性を意図せず象徴しているかのようだ。
バブル景気に世間が浮き立ち、世間にはテレビの中の快楽よりも、目の前の快楽が溢れていた。アニメはもとより、アイドル業界ですら世間の喧騒から掻き消されかけた時代。アイドル達はバラエティー化して糊口を凌ぎ、アニメはTVから本数を減らしてOVAで独自分野の密度を深めていた。
1995年のエヴァのヒットにより、アニメ界はその世界が拓かれていくが、アイドルアニメについては、その出足は遅かった。つまるところ、アイドルアニメは「時代の反映性」が強いジャンルであり、現実のアイドル業界に、まだ以前の輝きが戻り切っていなかったためと思える。
この頃のアイドルアニメは、1994年「超くせになりそう」、1995年「こどものおもちゃ」など、初めからアイドル業界を斜に見ているTV作品、1993年「アイドル防衛隊ハミングバード」、1994年「KEY THE METAL IDOL」、1995年「アイドルプロジェクト」など、特異な設定をアイドルに組み合わせたOVAなど。
アイドルアニメにおいても、バラエティ的なアプローチでしか、アイドルを描けなかったと言う事だろう。
ただ、1999年にマッドハウスが携わった「チャンス〜トライアングルセッション〜」は、ショウビズ界を丁寧に描いた佳作だった。

  • 2000(00)年代 〜エンタメ至上主義時代の道程〜

時代が変わった。この国の成長は完全にとまり、世間はあらゆるエンタメにのめり込んだ。アイドル業界もアニメ業界も、その権勢が際限なく広がり、元々世間から低俗とみられていたこれらエンタメ業界こそが、最も価値有るかのような時代になっていった。
実際には、アイドル業界では1990年代末からハロプロが台頭し、モー娘。が活躍し始めていた。アニメ界も新しいエンタメを求めて様々な斬新な作品が作られた。
2002年「満月をさがして」は、死のイメージが濃い「悲恋」をテーマにした作。その方向性は少し前時代的だが、アイドル業界を基本的にポジティブな夢としているところに、この時代らしいアイドルアニメとしての力強さがある。
2003年「カレイドスター」の登場は、その後のアイドルアニメの歴史に大きな影響を与えているだろう。この作品は、アイドルものというよりもサーカスものだが、演者が努力により技を成功させる、いわゆるスポ根モチーフが、ステージ上でも活用できることをアニメで表現し、後の多くのアイドルアニメのモチーフに活かされることになる。
また、同じく2003年の「ぴちぴちピッチ」は、「セーラームーン」の流れを汲む変身戦闘少女ものだが、その戦い方は「歌とステージ」。人魚の世界を舞台として大仕掛けな何でもありの設定を取り入れており、ステージにおける「心象風景の具現化」を積極的に描いている。これは「カレイドスター」にも同じ要素があり、これらが、後のアイドルアニメの大きな魅力である「ありえない映像美」の表現につながっていると言えるだろう。
2006年「らぶドル〜Lovely Idol〜」の存在は、アイドル企画ものの中でも以外と大きい。美少女ゲームの所謂ハーレム物の流れを汲む王道的な作品であり、それが初めてアイドルアニメ化しているところに、その象徴性がある。この流れは、そのまま「アイドルマスター」につながっており、つまりは男子をメインターゲットとするアイドルアニメやゲームの、本流中の本流という捉え方ができるのだ。
同じく2006年「LEMON ANGEL PROJECT」については、内容的には前時代的な古臭さが残るが、1986年「メガゾーン23」、1994年「KEY THE METAL IDOL」、「マクロスプラス」から連なる「バーチャルアイドルもの」の系譜を継ぐ作として、意義があったと言える。
そして、00年代を代表するアイドルアニメと言えば、やはり2006年「きらりんレボリューション」だろう。内容は、実に他愛のない少女漫画的ヒロインによるアイドルサクセスストーリー。ドジで元気な普通の美少女の様でいて、実は無限の能力を持つヒロインが、あらゆる困難に打ち勝っていく。その能力は、かつて伝説のアイドルえり子が大きな壁と思ったものすらも、軽々と越えていくレベルw。その元々のアイドルへの動機も、男子アイドルへの恋心だったというのだから恐ろしいw。しかし、こういったあらゆる負の概念から解き放たれた存在こそが、真のアイドル像とも言え、それを体現したヒロインを生み出した功績は非常に大きい。
これらの多種多様な作品が作り出され、その結果、アイドルアニメには、より大きな可能性が存在している。今はそういった時代になってきているという訳だ。

  • そして2010年代 〜アイドルアニメ収穫の季節〜

2010年代のアイドルシーンは、AKB48と共に爆発した。オタク文化と親和性の深い秋葉原発のこのアイドルグループは、2005年から活動を開始していたものの、その存在が広く知られ、ブームとなったのは00年代末。その勢いは凄まじく、その後の大小さまざまなアイドルグループ乱立を促し、その流れが、今のアイドルアニメ乱立の要因の一つになっているのは間違いないだろう。
既に00年代のエンタメ至上主義の中、アイドルアニメを作るメソッドが多数存在しており、それをより望ましい形で作品化する事が出来る状況にある。結果、質の高いアイドルアニメが一気に生まれるという現状が存在している。
一つ一つのアイドルアニメについて、その系譜から説明すると、それはもういくら文を費やしても足りないので、この文の本来の目的であった「アイカツ!」に関してだけ語りたい。
アイカツ!」のメインフレームは、カードダスを使ったゲーム機のシステムであり、それはステージ上の技を競うという形になっている。これは「カレイドスター」の「スポ根モチーフ」に由来するだろう。
そして、その結果は順位という形で表されるのだが、このアニメの上手い所が、この順位を明確に表示しないところ。順位付けは物事を明確に表し面白くもあるのだが、同時に実力至上主義の冷たさの表現に成りかねない。作品上ではその存在を仄めかしつつ、また順位がある程度想像できる表現をしつつ、決して明確にしていないところに、見る者への心遣いがあるだろう。
また、「アイカツ!」の魅力の一つとして、その映像美がある。これは、3DCGを利用したゲーム画面の流用と思われるのだが、これがTVアニメ史上でも高レベルと言えるほどの美しさとなっている。その密度は、時に最高解像度で録画しないと処理落ちしてしまうレベルwであり、速くのBD化を希望したいくらいだ。
また、この映像美を演出する設定が実に上手い。作品上にはアイカツシステムが存在することになっていて、それはつまり、バーチャルで衣装を着たり「アピール」を出したりすることが出来るというもの。この発想は「バーチャルアイドル」の流れを汲むものだろう。
アイドルアニメにおいて、非現実的な映像による映像美が、ある意味必要不可欠となっているが、それは、アニメだからといって非現実をむやみに映像化する「ミスター味っ子演出」の多用に繋がりかねない。それは映像的に面白くもあるが、物語的に現実味を薄める要素ともなる。「アイカツ!」では、そういった負の要素を取り除きつつ、ありえないほどの映像美を演出する設定として、アイカツシステムを上手く取り入れている訳だ。
そして、やはり忘れてはいけないのが、ヒロインの魅力だろう。
ヒロイン星宮いちごは、ごく普通の弁当屋の娘。アイドルマニアの友人に連れられて初めて見たアイドルステージに感動し、アイドルを目指すことになる。
とても純粋に、ただただアイドルの華やかさに惹かれてアイドルを目指す彼女だが、実際には、より深い魅力を隠し持っている。それは、他人の為に「どんなことも出来てしまう」こと。弁当屋の娘として、他人に奉仕する事に一切の躊躇が無い。あらゆる努力を惜しまない。その心根が、ただ、いちご自身のアイドルへの成長のみならず、周りのアイドル達をも助けていくことになる。
アイドルとはどういう存在か。それを設定するのは実はとても難しい。大きな夢を持っていなくてはアイドルとしてファンが応援する対象にはならないし、かといって、その夢が「野望」といえるほど独善的であれば、それもまた応援の対象にならない。普通の少女の様でいて、実は、他人を助ける為にあらゆる無茶を成してしまういちごは、無限の可能性を持つ存在として設定されているといえるだろう。これは、「きらレボ」の「無限の能力を持つヒロイン」の流れを汲みつつ、より望ましい設定と言える。
・・・「アイカツ!」の三つの魅力を語るだけで、ここまで長文になってしまった。他にも、脚本構成とか、他のキャラの設定とか、歌パートアイドルについてとか、語りたいことが沢山あるのだが。
アイカツ!」は、00年代アイドルアニメの様々な要素を、より望ましい形で受け継いだ集大成として、現時点における最も素晴らしいアイドルアニメだと思っている。
あー、いちごたん、らぶゆー。