物語の推進力について、少しだけ

先日、「デジモンアドベンチャー」のリマスター版の放映ということで、久しぶりに第1話を観た。以前見たのはもう随分前だし、あまり覚えていなかったのだけれども、改めて見て、その出来があまりにも良くて大いに感動した。
物語は少年少女たちが異次元に迷い込んでそこでデジモンと出会い冒険を繰り広げるというもので、その導入の第一話としてとてもオーソドックスなんだけれども、その構成に一分の隙も無いくらいの完成度だと思った。
まず最初に主人公達とは全く関係ない全世界の異常気象の描写。しかし、これが主人公達の異世界冒険と関係があることだけ匂わせておく。直接的な繋がりは特に語らない。けれどもこれだけで、主人公達が後にこの危機に瀕している世界を救う勇者的存在に成るのではないかという期待感が生まれる。
多くを語らない事が視聴者の妄想力を掻き立て、そこにこそ物語の推進力が生まれる。逆に、最初から説明してしまうと「あーはいはい、主人公達は勇者システムという訳ね」となってしまい、視聴者の心の中に推進力を生み出さない。非常に些細なことなんだけれども、この違いは種を知ってるマジックがつまらないくらいの大きな違いだ。
デジモン第一話の素晴らしいところはもう一つあって、デジモン達の「進化」を、こちらはとても丁寧に描いていること。
デジモン達は進化して強くなる。けれども、その進化は何によって起こるのかというと、戦闘の経験値などではない。実は主人公達との心の繋がりが大きくなることによって進化する。心の繋がりというけれども、これが結構描写するのは大変な筈で、異世界で初めて出会った元々は得体のしれないモンスターとの心のつながりを持つところを描かなくてはならない。作り手としては、少なくとも二・三話かけて描きたいところだろう。しかし、これが「物語の掴み」として絶対に一話に入れるべきと判断したのだろう。現実世界の描写とかをほとんどすっ飛ばして、とにかくその部分まで辿り着くよう構成されている。それも実際には急いで無理な展開をしている訳では無く、その部分は実に丁寧な描かれ方となっている。
この主人公達とデジモンの心の交流こそが物語の肝だという事を描いたことにより、様々な物語の推進力が発生する。
デジモンは主人公毎に種類が違う。それが心との繋がりがあるということは、デジモンは一種の「ペルソナ」だと言う事が出来る。それが成長していくということは、この物語が少年たちの成長物語である事を明確に表明すること。主人公達それぞれの心の成長を期待するという物語の推進力が生まれている。
また、このデジモンワールドという異世界で心の交流が生まれるということは、現実世界からの乖離というエネルギーにもなる。つまり、異世界と現実のどちらを大切にするのかというドラマが生まれ、最終的に現実への帰還エピソードが避けようもなく大きくなることが期待される。
そして、最初に描写した現実世界の異常事態とも繋がってくる。つまり、主人公達少年少女の心の成長こそが危機に瀕した世界を救うのだということが透けて見えてきて、そこに大いなる感動が約束されていると認識出来る。
隙の無い構成を作ることによって、そこに物語の先に待ち構えている感動を期待させる。そして、それこそが物語の大いなる推進力になる。
デジモンアドベンチャーの第一話は、正にその理想形と言っても良いくらいの構成だと思った。
さて、ついでなので今期の2大話題作とも言える「艦これ」と「デレマス」についてもこういった視点で書いておこう。
この視点だと「艦これ」はダメ。艦むすという非常に特異なキャラクター、設定を使っているのだけれども、その特異さを物語の設定につなげようという意思がないみたい。逆に特異な部分に違和感を感じさせない様に腐心している様子。これは艦むすをキャラ萌えの視点からしか描く気が無いからではないかと思えてくる。本来であれば、艦むすが異常な世界における異常な存在であることをもっと描写する事で、その異常さを超えた幸福に辿り着かせるなどの物語の推進力になるのだけれども、そういった冒険を犯してないので非常に平坦な物語しか想像できない状況だ。
「デレマス」については、なかなか良い。寡黙なPの不可思議な行動という設定で様々な物語の推進力が期待できる。笑わない凛に笑顔が良いと言うのはとても深い言葉で、その意味は物語の最後まで掘り下げられるレベル。それと対比することで卯月もカリスマも生まれている。少なくとも卯月の笑顔が凛の人生を変えている。また、Pの不可思議さと「シンデレラ」という魔法物語が繋がり、疑似ファンタジー的な展開が大いに期待出来そう。これもまた大きな物語の推進力だ。
実際には、最初の構成が良くてもずっこけることもあるし、最初だらだらしてても、途中から盛り返す事もある。けれども、アニメという一話作るも大変な労力がかかる作品においては、どの作品も第一話から全力投球しているはずだし、その最初を見ただけで後の展開も推測できると言うものだ。
さて、これらは最終的にどんな評価になるのかな。期待したい。