響け!ユーフォニアム8話を語る。〜半身としての百合〜

いや、よかった。響け!ユーフォニアム8話。今までの積み重ねが一気に開花した感じ。
ここに至る兆候はあった。明らかに高坂さんの久美子を見る目に緊張があり、これが何を意味するのかという謎が存在していた。その謎が今回解明したのだけれども、その答えは「百合」。百合萌え万々歳的な感じで、見る者の評価も一気に高まったとか。
ただ、この二人の関係をただ単に「百合」として片づけてしまうのには抵抗がある。百合とは言ってみれば女性同志の恋愛感情を描くものだけれども、本当にこの二人は恋愛感情なのか。高坂さんは「愛」という言葉を使うけれども、それは所謂男女の恋愛の女性同志版を意味しているのか。
高坂さんの久美子を求める心は、もっと精神的で根が深いもののように感じる。そして、その感情を受け止める久美子の心の中にも、それに匹敵する高坂さんを求める心があるように感じる。二人は互いにその魂そのものを求め合い、その魂同志が深く共鳴しあっている様に思う。
高坂さんの久美子を求める心は、今回とてもあからさまに晒された。高坂さんは自分が特別になりたい、人とは違う人間になることを求める存在。その事は誰もが薄々感じてはいたけれども、それが久美子を求める心に繋がるとは思ってなかった。
高坂さんは久美子を「性格悪い」という。そしてその「性格の悪さ」を好み、自分のモノにしたいらしい。この感情の流れの意味は明らかだ。「性格の悪さ」とは、相手の気持ちを考えないで自分の本音を言葉にすること。つまり、高坂さんは本音をぶつけてくれる事を久美子に求める。自分が特別になろうとするとき、周りに「良い人」が居ても意味が無い。今の御時世「出る杭は無視する」という良い人達ばかりの優しい世界において、特別な存在は透明な存在にされてしまうだけだ。本音をぶつけ合い、特別になる為の道を指し示してくれる相手こそを高坂さんは求めていて、それが正に久美子だった。
この感情は、もう百合とか恋愛とかの感情を超えている。それは正に自身のアイデンティティを確立するために必要な、自分に欠けた部分を埋めてくれる「もう一人の自分」を求める心。特別を求めるという、今の御時世では「歪んでいる」とされかねない魂にとっては、「救済」ともいえるものだろう。
しかし、そこで謎なのが久美子の方の心だ。この物語では久美子の一人称によって進んでいくので彼女自身については俯瞰的に見づらい。そのため、高坂さんの求める気持ちは分かっても、それを受け止めている久美子の感情が把握しづらい。しかし、久美子はやはり高坂さんを求めているのだ。それはなぜなのか。
久美子には二つの他人と少し違う点がある。一つは彼女は元々転校性だったと言う事。元は東京の出身で彼女は基本的に標準語で喋る。そしてもう一つは普通の女の子に比べて少しだけ背が高く胸が無い男性的な身体特徴をもっていること。実は物語の冒頭でも彼女のそんな描写から始まっている。
これら一つ一つは取るに足らないことだろうが、本人にとっては結構気にしていることなのだろう。彼女は転校生として、そして少し男前な体格から、子どもの頃から周りの同級生にとって少しとっつきにくい雰囲気の少女だったのではないだろうか。つまり少しだけ「特別な存在」だったのかもしれない。
しかし、彼女自身はそれを良しとせず、自分が他人と少し違うと思いつつも「上辺だけは他人に合わせる」という処世術を身に付けて今に至っているのかも。だから久美子は、自身が「特別な存在」であることを自覚して自分だけの感情=「本音」を意識してしまい、それを口にしてしまうのだろう。彼女が吹奏楽を続けるのも、共同体に所属することで特別な存在であることを隠そうとしているのかもしれない。
これは、高坂さんの性格と真逆の方向性だ。「特別な存在」に成りたくてそれを認めるたった一人の存在を求める心と、「特別な存在」に成りたく無くて自分を偽って周りに合わせる心。
二人は共に「特別な存在」というものに振り回され、それをどうにかしたいが為に楽器を吹く。片方は求める為に、片方は逃れる為に。その心の方向性は真逆だが、しかし共に切実であり、それ故共鳴する。
今回はただ一方的に高坂さんが久美子にラブコールを送っているかのような展開だったが、それを心境的に深く受け止めている久美子の心にも、同等の求める心があるはずだ。久美子もまた、高坂さんに対して恋愛感情よりも深いともいえる「求める心」があるのだろう。
互いに自分の半身を求め合うように、互いに心の形を確かめ合うように、楽器を合奏し、音を重ね合う二人。このシーンはとても精神的で美しいシーンであるのと同時に、二人の心の有り様を思うと、エロティシズムすら感じさせる淫靡なシーンでもあった。素晴らしかった。