「魔法少女リリカルなのは」を語りたおす Ⅱ 家族構成から想像できる戦う動機

この本当の動機は家族との関係がとても重要な要素となっている。そして、その事を描く為にこの物語は家族の描写を多く取り入れている。
なのはの家族はかなり特殊である。両親はごく普通の喫茶店を経営いるものの、その過去は相当ハードであったと想像できる。父親は背中に多くの傷痕を持ち、それをなのはは一緒に風呂に入りながら目の当たりにしている。(父が娘を風呂に誘うコメディシーンはそれを明確にする意味がある)なのはの父親は、恐らく人を助ける為にこの傷を負ったのだろう。この父親からの「人を救え」という言葉はとても重い意味を持つと思われる。
しかも彼女を取り巻く要素はこれだけではない。彼女には二人の兄姉がいるが、この二人も父の教えを守り、日々精進しているようだ。父を助け、また彼ら自身も既になにかに対しての戦いをしている雰囲気を漂わせている。(これについてはスピンアウト元の「トライアングルハート」に詳しいのだろうが私はまだやった事は無い)つまりなのはの家族は、簡単に言えば「正義の味方家族」なのだろう。
そして幼いなのははまだ守られる存在として、この家族の中でただ一人異質な存在となっている。その事は彼女の責任ではないものの、彼女にとって深い悲しみ、焦燥として心に留まっているに違いない。これは第1話の冒頭で彼女のモノローグで冗談めかして、そして後にユーノへの告白として明確に表現されている。
なのはは常に家族と同じ立場に立ちたいと思っていた。つまり正義の味方になりたいと強く望んでいた。しかし、自分の幼さ、そして体力に対する資質の無さ(自分ではそう思っているようだ)から半ば諦め、そして悩んでいたに違いない。第1話でなのはが自分の進路を明確に出来なかったのは、この事へのこだわりがあったからなのだろう。
そして、彼女に転機が訪れる。
人を助ける為に戦って欲しい、その為の力を授ける、という申し出は、彼女とって正に願っていた事だったに違いない。魔法の力が実は心の力だとすれば、彼女が魔法使いとして素養があったのは偶然では無い。彼女はなるべくして魔法使いになったのである。
なお、この「親や家族と同じ立場に立ちたい」という思いは、彼女の家族が「正義の味方家族」である事を除けば、実際は実に普遍的かつ健全な望みでもある。それを魔法の力という要素を使って心情面から叶えていくこの物語は、かなり良質な成長物語といえるかもしれない。また、彼女の心の成長は単に魔法使いになっただけでなく、この後も続いていくのである。