「魔法少女リリカルなのは」を語りたおす Ⅲ フェイトとの出会いの意味するもの

なのははフェイトと出会い、そして強く惹かれていく。彼女の友達になりたいと強く願う。この想いは単に同じ年頃の少女と出会ったから知り合いたいという簡単なものではなく、もっと強い想いである事は、作品を通じて明確に表現されている。この事が作品のメインテーマとしても良いくらいである。では、なぜなのははフェイトに強く惹かれたのだろうか?
なのはには元々二人の友達がいる。そして彼女達には一つの共通点がある。それはメイドや執事を持つほどの大金持ちであるということ。これは彼女達がその幼さにして人を使わねばならない立場にあるという事を意味している。彼女達の精神年齢の高さはこの事に起因しているのだろう。そしてなのは自身は、彼女達に比べればそれほど精神年齢が高いわけではない。しかし、内に秘めた強い意志は二人を上回っており、そこに、精神年齢を高くせざるをえない立場ながらも子供らしい弱い心を持っていた二人は惹かれていると言える。互いに補完しあう良い関係といえるが、必ずしも同じ心を共有しているわけではないのかもしれない。
そしてフェイトである。なのははフェイトとであった時、一つの問題を抱えていた。
なのはは家族に認めて欲しいという想いもあり魔法使いになったが、実際にそれを家族に知らせる事は出来ない。彼女が闇雲に危険な事をしているとすれば、家族は絶対に反対するだろう。(実際に兄に怒られるシーンがある。)やり始めたばかりであり、それが自分にとって本当に重要なことと断言できる状況でもない。ここに「知ってもらうべき相手に知られてはならない」という矛盾が生じているのだ。
そんな時になのははフェイトに出会う。母に認められるが為に、どんな悪行苦行をも辞さないという、穏やかながらも深い哀しみの表情をたたえた少女に。なのははそこに自分と同じモノを感じたに違いない。家族が優しいがゆえに認められ報いたいと願う少女と親からひどい仕打ちを受けながらも認められて愛情を取り戻したいと願う少女。立場は全く違えども、その心の方向性は全く同じ。二人は正に「魂の双子」といえる。
なのははフェイトと出会い自分と同じモノを感じた時、自分の中の矛盾する感情の向けるべき相手を見い出したに違いない。ここに親や家族の為ではなく、心の共感する他人の為に行動しようとする心が生まれる。もちろんそれ以前にユーノの存在もあっただろう。しかし、それ以上に、フェイトへのそれは「家族の為」という一種の呪縛から解き放たれるほどの強いものだった。これがあったからこそ、クロノや次元管理局との関係もすんなりと受け入れる事が出来たといえる。そして彼女は家族から離れてまで、事件の渦中に身を置く事を選択していく。これは正に、自身の関心事を親から他人へと向けるという、心の成長そのものでもある。
フェイトの方は自分のやるべき事が終始徹底している。母に認められること、それ以外にはない。それだけになのはの言葉が届く事は無かった。しかし、母に認められること自体がありえない事であると知り、その時初めて自分の為に行動してくれている存在を認識する。それがどれだけ自分にとって貴重なものであるかを知った時、フェイトもなのはに強く惹かれていくようになる。
最終シーン、二人が出会い、その髪飾りを交換する行為は、魂の双子である二人の魂の交換そのものと言える。自分達の進むべき道がどれほど困難であったとしても、お互いがいれば進んでいける。支え合うわけではなく、共に進んでいける存在を見出した幸福。いわば結婚以上の強い絆を確かめ合い、二人は互いの心の置場所を定めたのだ。これは心の成長という面でも一つの到達点と言える。なのはという少女の成長物語としてこれほど見事な決着のつけ方は他にないであろう。